NOSIGER 太刀川さん

触媒として、横浜を「クロスオーバー」させる存在

太刀川英輔さん(NOSIGNER・代表)

NOSIGNER(ノザイナー)は横浜が世界に誇るデザイン事務所で、太刀川英輔さんといえば、ソーシャルデザインの力で数々のアクションをつくってきた、まだ若い「大御所」である。相澤とは「YOXO BOX(よくぞぼっくす)」のプロジェクトでチームになった。YOXOとは何か。横浜・関内をどう再構築していくのか。世界的デザイナーからみたplan-Aとはー。

#When?/Where?

「YOXO」はまさに「錦の御旗」

太刀川英輔さん(以下、敬省略): NOSIGNERでは、横浜市が掲げる「イノベーション都市・横浜」構想に対して、市庁舎が馬車道に移転した後の関内エリアのビジョンに対して、YOXO(よくぞ)のコンセプトを提案していました。

横浜では、みなとみらいエリアと、関内エリアの対比が常に考えられています。みなとみらいエリアは日本最大級のR&Dのまちで、大企業の研究機関が集積しています。横浜市役所もこの5月に馬車道に移転したばかりで、横浜にとっては最も歴史的にも深くコンテクストもいい関内エリアが空いてくる、という危機感がありました。そもそも横浜は創造都市政策で関内エリアにクリエイターを誘致し、クリエイティブなネイバーフッドをつくってきた経緯があります。

横浜は日本の様々な文化の発祥の地で、電気、新聞、ガス、洋食、アイスクリーム……イノベーションが始まったのがこの界隈なのです。ここで改めて、関内をスタートアップがどんどん出てくるエリアにしたい。大企業が集積しているみなとみらいとクロスオーバーすることで、スモールチャレンジと、大きなチャレンジの触媒エリアになれるといいのではないかと考えていました。

横浜ではさまざまなスタートアップ支援、イノベーション政策を実施してきていますが、プロジェクトの一つひとつが細切れだと、「イノベーション」と「横浜」が結びついていきません。チャレンジャーを応援する共通の掛け言葉をつくりませんか、と提案したのが「YOXO」というコンセプトです。

YOXO コピーライティング

 

ぱっと見て、横浜らしい。元気。テック的なオーラがある……。そんな言葉を考えるなかで思い浮かんだのが「YOXO」なんです。「よくぞ(やりました)」という褒め称える言葉でもあり、XとYは染色体でもある。新しさがある。横浜○×○というイメージ。クロスオーバーと略せる……。そんな要素が詰まり、「YOXOにしません?」と、市長に提案しました。

旧横浜市庁舎の目の前の立地にあるこのビルに、横浜市のベンチャー企業育成支援拠点である「YOXO BOX(よくぞぼっくす)」を整備することになり、そのプロジェクトマネジメントをplan-Aの相澤さんが担うことになりました。相澤さんとはそれ以前にも共通の知人を通してお会いしていて、すごく面白い方だなあ、という印象を持っていましたが、お仕事をご一緒するのはYOXO BOXが初めてでした。

そこからが「やばい」プロジェクトの始まりだったのですが……詳しくは、施主でもある三菱地所の副島健司さんが語っていますね(笑)。何せ、2カ月半でオープンまで持っていかなければなりませんでしたから。

 

取材は太刀川さんがコンセプトの立ち上げからデザインまでを手掛け、相澤がプロジェクトマネジメントを担当したYOXO BOX にて、ソーシャルディスタンスを設けて行われた。

相澤: YOXOはまさに、経済局にとっての「錦の御旗」だったのではないか、と思います。デザイン上の、ファーストステップがすでにできあがっている状態で、設計や施工を進めるうえでの全ての下地になりました。このコンセプトがなかったら、2カ月半の施工期間という「やばさ」の中では、現場でも常に迷いが生じ、このプロジェクトは破綻していたかもしれません。

逆にいえば、YOXOの理念というか、デザインコンセプトができあがっていたからこそ、迷いなくこのプロジェクトを進めることができたと言えます。改めて、デザインの力を感じますね。

#What?

GもYOXOの一部

相澤: 実は、横浜市のプレスリリースでYOXOのロゴやコピーの考え方が発表された時に、経済局のご担当者の方からご連絡をいただき、私がプロデュースを手掛けたリストのG Innovation Hub YOKOHAMA(通称:G)のメンバーも一緒に見ていた。Gが生み出された経緯は、こちらの記事をご覧いただくと詳しく書かれていますが、「イノベーション都市・横浜における」みなとみらいと関内の関係性のなかで、関内エリアにベンチャー企業を呼び込み活性化を図るにはどうしたらいいのかという文脈のなかで立ち上げました。つまり、もともとYOXOの思考と親和性があったんです。それを経済局が「錦の御旗」として出てきたことに価値がある。YOXOが生まれたことによって、Gが向かうべき方向性がはっきりわかった。すとんと腹落ちする感じです。

スタートアップ支援、ベンチャー育成という意味では、GもYOXOも似たような存在と考えられがちですが、実はYOXOとGは両方必要で、バランシングしています。双方を補い合えて、お互いを必要としている。距離感も絶妙ですよね。そういう意味では、GもYOXOの一部なんですね。

 

太刀川: YOXOで「イノベーション都市・横浜」をフェスティバルにしたいんですよね。YOXOは「ほんわりとした傘」で、そのコンセプトを一番具現化しているのがここ、YOXO BOXなんです。YOXO BOXという場所があれば、いろんなイノベーション政策を具現化できる。教育プログラムもありますし、今はコロナでなかなか動けずにいますが、本当は、次、次、とやっていきたいことがあります。

GとYOXOの関係性は、絶妙ですよね。クリエイティブ側からビジネスにいく流れと、ビジネスサイドがクリエイティブに開こうという動きが出ると、そこの間に、微妙に「不気味の壁」が存在するんです。よりクリエイティブと私的文脈に近いのがGで、よりスタートアップ支援、アントレプレナーやビジネスサイドに近いのが、YOXO。YOXOは大きな企業のサテライトも入りやすいですし、Gはより「創造界隈」的な、いいデザイン事務所で修業したような人向け、となる。YOXOとGは親和性が高い状態で存在している。そういう中間領域をどんどん埋めていく人が増えていくといいですよね。

 

NOSIGER太刀川さん

「YOXOの工事は、後半にいくにつれて、みんな仕事がすごくよくなっていって、“やばい”現場なのに、本当に楽しかった」と、太刀川さん

 

相澤: 最近Gが仙台のやんちゃなコワーキングと業務提携したんです。横浜を最強の地方都市といったん据えたとして、各地と業務提携することで、横浜がビジネスチャンスや販路を広げる、というわけです。この動きは日本の全体的なエコシステムの中で横浜の役割を可視化することにつながります。外の人に対して横浜を示す時に、「横浜とは、YOXOだ」と直結するようなるわけですね。

これからは、YOXOという概念を正しい理解のもとに使いこなせる人口が必要になりますし、YOXOの活動そのものの可視化も必要になりますね。横浜はあちこちでいろんな人ががんばっていますが、その存在が可視化されていません。その人たちがどうつながっているのか見えないので、知らない人からすると内輪が盛り上がっているようにしか見えない。それをきちんと可視化して、その人たちが決して内輪でやろうとしているわけではない、全体の活動がYOXOになぞらえている。それをDNAにするリテラシーが求められていますね。

 

太刀川: YOXOのWebをつくりたいですね! まさに、今、相澤さんがおっしゃってくださった通り、YOXOはみんなのものにできるポテンシャルがある。横浜から新しいチャレンジャーを生み出したいんです。横浜をつくっているのは自分たちだ! という人がちゃんとつながっているのか? 地域のクリエイター、スタートアップ、ソーシャルアントレプレナーなど、横浜でコミュニティをつくってきた人たちが、YOXOを使い倒すことができるんです。それはYOXO BOXという場所だけでなく、YOXOというコンセプトも含めて、です。

最近、YOXOのロゴのガイドラインを公開したんです。趣旨に合致する人は自分ごととして使っていただける人が増えるといいなと思っています。

 

#How?

絶妙な空間把握能力でチームの本領発揮を導く

相澤: YOXO BOXを施工するなかで、NOSIGNERがデザインした旧市庁舎に面したガラス面、これが採用になるのが一番早かったですね。YOXOのロゴがあしらわれたモノグラム的なデザインが示された時、メンバーがざわつき、そしてすぐに合意された。

 

太刀川: YOXO BOXのなかで、いろいろな「何か」が起こります。行政の何か、スタートアップの何か、普段の何か。こうしたモノグラムの仕掛けがあると、YOXO BOXのどこで写真を撮っても、「ここはどこか」とはっきりわかるんです。インテリアとしても可愛いんですが、どこでもバックパネルになるし、記者会見もできる。外から見た時に、ああ、YOXOの話だね、となるんです。

 

YOXO ガラス面

 

 

相澤: 今回、太刀川さんとお仕事でご一緒するのは初めてですが、太刀川さんの華やかな実績や、ご自身の考え方は、いろんな場面で拝見していました。太刀川さんを個人としてとらえた時にめちゃくちゃ熱量高い人だな、仕事のクオリティに対しての緊張感の高さが半端ない、と感じていました。だから、YOXOのデザインを太刀川さんが手がけると聞いた時に、すごく安心したのと同時に、この期間内で太刀川さん納得するクオリティまでいくのか、リアルに恐怖だった(笑)。やるからにはちゃんとやりたいというのは、プロであれば皆同じで、期間のせいにしたくないのは本音です。でも現実的にマジでやばい工期でした。

実際にノザイナーの中でデザイン実務を担当したのは中村光介さんと青山希望さんいう若手のスタッフでした。彼らも熱量が高く、ごんごん押し込んでくるんですが、議論が停滞する時に太刀川さんがいらして、穏やかに、マイルドに、だけど緊張感を持ってふわっと流れを変えられる力に、すごく安心したんです。だけど、ギリギリをちょっと超えるくらいのところまで、デザインの精度をあきらめないのが面白かった。最後の最後、看板の面の仕上げをどうするか、取り付けの本当にギリギリ直前まで、クオリティを高めていこうとする。そして、副島さんがビビる、みたいな(笑)。後半に行けば行くほど、仕事が楽しくなってきて、それがまさにルーヴィスの福井さんがいう「ブロックチェーンみたいなおもしろさ」につながっていったんですよね。

 

 

太刀川: YOXO BOXの施工は、いい意味で。かなりやばい現場でした(笑)。そのなかで、プロジェクトマネジメントを担っていたのが相澤さん。デザインサイドからも面倒くさい要望が出てくる、施工サイドとの調整、市との折衝、間にたって、時間的リソースがなければないほどしんどいはずなのに、相澤さんいつも上機嫌なんですよね。これだけヒリヒリした現場で上機嫌。そして、余裕がある。相澤さんのミラーニューロンの強みを感じました(笑)。相澤さんは空間把握能力に関して自分をめちゃくちゃ磨かれてきた方なんですね。この力学がこう歪むと先回りしておこうか、という調整能力が極めて優れている。目的が一緒でも立場や手段が違う多様なプロジェクトメンバーたちの間を、うまく吸収してくれつつ、それが妥協にならない、うまいこと上機嫌で整えてくれる感じなんですよね。プロマネとは、かくあるべき。それを相澤さんが見せてくれた気がします。

相澤さんはチームメンバーを「のせる」のがめちゃめちゃうまい。相澤さんがつちかった感受性によって、その人の限界ライン、許容範囲ラインを把握していて、ちょいチャレンジ、ちょうど良いかな、その人の本領、ポテンシャルを発揮してもらう采配が絶妙です。適材適所に人をポジショニングして、ひらたくいえば、「自分の力を信じてくれる上機嫌なあんちゃん」です。みんな、やりやすい。その状況をつくってくれるのって、才能だと思う。難しいプロジェクトの難しさが下がるんですよね。

 

相澤: その根底には、チームメンバーそれぞれに対する信頼感があるんですよね。それがチームとして機能するまでに、YOXOのメンバーは時間が短かったのが特徴です。それぞれのプロフェッショナルと、覚悟が異常なくらい半端なかった、と言えます。

「太刀川さんの言葉の力、本当にすごいなあ……」。インタビュー中、何度もうなずく相澤

 

#Why?

イノベーションに必要不可欠な「触媒」

太刀川: 相澤さんを一言で表すと? ……あ、この質問、考えていなかったです(笑)。ちょっと待っていてくださいね……(しばし間をとる)。

……「触媒」かな。

相澤さんは安定感があるから、自分は変わっている風には見えないけれど、相澤さんがそこにいれば、なんかうまいこといく。本来起こらない化学変化をなんとなく起こす力があるというか。そんな感じがしますね。それは、クロスオーバーには必要なものですからね。本来混ざらないものを混ぜ合わせる力。

オーストリアの経済学者のヨーゼフ・シュンペーターが、新しい何かを生み出す要素として、「ニューコネクション=新結合」の遂行と定義しているんです。これで混ざらなかったものを混ぜ合わせていく力。これがまさにイノベーションなんですよね。

相澤さんは、クリエイティブもビジネスのこともわかる。これはめちゃくちゃ重要で、それぞれが本領を発揮できる融合点を見つけることが必要なんです。これは、いわゆるイノベーターという人たちの中にも備わっているスキル、マインドセットなんですが、イノベーションって多分、個人の中だけで起こるものじゃなくて、偶然に出会ったいくつかのものがつながって起こるものなので、そのつながりをどうプロデュースするかが重要なんですね。

相澤さんのような人がいるからこそ、YOXOとかGがまわるんです。

 

相澤: これは、まさにYOXOの真髄とも言える言葉ですね。

 

太刀川さんが今まさに取り組んでいる新型コロナウィルズのパンデミック対策サイト「PANDAID」の話や、ソーシャルディスタンス啓発シール「LIFE COIN」の話は、私が理事を務めているNPO法人森ノオトのWebメディア「森ノオト」の方で読んでいただけたらと思います。

→NOSIGNER・太刀川英輔さんが語る「楽しいソーシャルディスタンス」。 LIFE COINを広げよう!

(森ノオトのHPへ)

 

取材の後半では、太刀川さんが立ち上げた感染症対策サイト「PANDAID」に映った。A4クリアファイルでつくれるフェイスシールドを取材スタッフで制作しているところ