横浜の文脈を、熱く、さらりとチームアップ。

副島健司さん(三菱地所株式会社横浜支店 主事)

高層ビルとホテル、大観覧車に港湾、橋と工場……そんな、横浜を象徴するみなとみらいを背景に、スマートな出で立ちでインタビューに受け答えする三菱地所横浜支店の副島健司さん。2019年10月、「イノベーション都市・横浜」推進の新拠点として関内に設置されたYOXO BOX(よくぞぼっくす)のファシリティを担当した副島さんと相澤が、あの「無茶で熱い日々」を振り返る。

#When?/Where?

「時間がないプロジェクト」のチームビルディング

副島健司さん(以下、敬省略): 横浜市のベンチャー企業育成支援拠点である「YOXO BOX」の整備と運営を、三菱地所、アドライト、角川アスキー総合研究所、plan-Aの4社による共同事業体で受託し、私は三菱地所の中で、主に拠点整備を担当しました。我々が施主で、plan-Aはプロジェクトマネジメントを担当する形で、YOXOのチームがスタートしました。
相澤さんと初めて対面したのは、2019年7月のことで、すごくいい意味で「ほどよい距離感」の方だなあと思いました。上も下も左も右も、悪い印象はなかったですね。
その後、YOXOのプロジェクトはすさまじいスピードで進めていかなければならなかったのですが、「時間がないプロジェクト」(*1)という課題感のなかで、パフォーマンスを最大化していくために、かなり近い距離感で仕事を進めていきました。

 

(*1)横浜市経済局新産業創造課から「横浜・関内エリアにおける『ベンチャー企業成長支援拠点』の運営事業者の公募開始が発表されたのが2019年5月16日。三菱地所、アドライト、角川アスキー総合研究所、plan-Aの4社による共同事業として運営事業者に決定したのが7月10日、YOXO BOXのオープンが10月31日というスケジュール感で、場の設計施工、運用体制を構築していった。

     

 

 

相澤: 7月末から実際にプロジェクトをスタートしていくにあたり、10月31日オープンというお尻は決まっており、「やばさ」が最初から際立っていたプロジェクトでした。設計、施工、検査まで、自社ビルでおこなうのでも間に合う可能性は「ゼロじゃないがゼロに近い」というレベルですが、YOXOの場合は賃貸している物件だったので、設計の段階で契約や退去条件の交渉まで含めた設計期間だったので、本当に「すさまじい」と言うしかない状況の中でスタートしました。

 

副島: 三菱地所は東京の丸の内や大手町を中心に、スタートアップの成長支援に取り組んでおり、拠点を設け会員組織をつくり、まちづくりにつなげてきた実績があります。しかし過去の経験からも、少なくとも1年以上はかかるプロジェクトです。今回は、場所は横浜でも関内で、横浜市の受託事業でもあり、これまで我々が東京でやってきたノウハウをそのまま持ち込むことは難しいだろうとなった時に、サービスや環境など、横浜で求められている水準と我々とのギャップを埋め、すり合わせていくことを、相澤さんに求めていました。

 

三菱地所株式会社横浜支店 アセットマネジメント・総務ユニット主事の副島健司さん。ランドマークタワーにあるオフィスから、みなとみらいの風景が広がる

#What?

一つのチーム「横浜」のマネジメント

相澤: とにかく、時間がないプロジェクトのなかで、ハード整備は最初から副島さんが三菱地所内のご担当ということもあり、最前線に立っていろいろと判断を仰ぎ、組織内部の合意形成をお願いしてきました。一言で表現するならば「修羅場」の現場で、常に臨機応変の対応を求められることもあり、本当に多くの意思決定をしていく立場にあり、ものすごいスピード感で内部合意形成を取り付けてきた副島さんには、勝手に男気を感じています(笑)。

 

副島: 私も、社内の意思決定や手続きなどは、通常とは全く違うスピード感で進めていかなければならなかったのですが、相澤さんが意思決定をするための材料をそろえてくださるのが早く、だからこそやり遂げられたとも言えます。

例えばAV機器とか、施設のソフトウェア関係、会議室の予約や来訪者の受付システム、スマートロック、ネットワークカメラなど、かなり細かい部分の選定においても、相澤さんが機器やサービスだけでなく、コストも含めて同時並行的に検討材料を集めてくださった。相澤さん自身もこれらの情報に詳しいですが、さらに専門特化した人を呼んできて的確な助言を集められたのが、このスピード感で走れたベースにあると思います。

 

相澤: 横浜市経済局の事業なので、横浜市の人と仕事をやることが大前提にあり、さらに工程にかなり無理があったので、現地から離れた人を呼んでくるのは物理的にはありえない状況でした。ちょっと電話をして「いる?」と言ったら、すぐに駆けつけてきてもらえる距離感は大事ですよね。

 

副島: 当社としても、横浜市の受託事業ということもあり、できるだけ横浜の人と一緒に仕事をしたかった。デザインはNOSIGNER(ノザイナー)、設計・施工はルーヴィスに入ってもらい、竣工に間に合うギリギリまでいいものをつくりたい、という思いを共通で持つことができました。そのための議論や変更はギリギリまでみんなでやっていった。皆さんそれを楽しんでくださった、という印象があります、しかも濃度高く(笑)。

それぞれ別の事業者でしたが、検討や意思決定のスピード感が、一つの会社の違う部署くらいの感じで、すぐに返事がきて情報共有できて。まさに一つのチームだ、という感じでした。

 

相澤: 副島さんは一見スマートに見えるんですが、戦うべき時にきちんと戦ってくださって。これだけ工期が短いプロジェクトのなかで、筋を通して仕事を進められたのは、副島さんが最大の功労者ですよ。それはルーヴィスの福井さんとも合意していることです。

「仕事を進めるには、チームの勢いを止めないなかで論点突破していく力技も必要ですよね……」と、副島さんとの仕事を振り返る

#How?

距離感と性質の異なるそれぞれの街を編集する

副島: 三菱地所は、横浜においてはみなとみらいの開発を進めてきました。最近、みなとみらいの企業集積が加速度的に進んできて、その後何をしていくべきかというフェーズにあると思います。みなとみらいは大企業の研究開発拠点が多く、関内はスタートアップ拠点が多い。それを結び付けたい、というのが横浜市のねらいでもあり、我々が考えていることでもあるので、YOXO BOXの整備・運営に出ていく判断をしました。

 

相澤: 横浜市における「関内」をどうするかは、マクロとミクロの両方のスコープで見ていくべき話であって、その中でも関内は特に「再生=リボーン」に近い状況だと思います。三菱地所は大手町、丸の内界隈といった、民間企業が資金と力を投入して実現してきたまちづくりの実績があります。行政だけではできない、民間だけでもできない、まちづくりの絶妙な距離感や経験値がそこに求められます。

横浜は、みなとみらいが都市の性質を強く持って企業を集積しているのに対して、2km対岸の関内に何を馴染ませていくとよいのかと考えた時に、ベンチャーというキーワードが上がりました。実際に関内には小規模なコワーキングスペースがいくつもあり、私が手掛けたG Innovation Hub YOKOHAMAも一つの仮説をもって動かしているわけですが。

「ベンチャー」「スタートアップ」といっても、誰もまだ言語化できない、どこまで具体性を持たせるのかがはっきり見えていないでスタートしたプロジェクトにおいて、アドライトも角川アスキー総研も与えられたミッションに対してものすごくがんばっているので、まずはその全体戦略をつくっていこう、というのが今年の動きになります。

 

副島: 横浜支店に来る前は、丸の内を担当していて、ハード面だけではなく、まちづくりとはどうあるべきかと考えて戦略を立てていた部署にいたんです。横浜に来てみなとみらいを担当するようになりましたが、みなとみらいも公民連携してまちづくりをやってきた歴史は丸の内と同じです。

横浜の面白いところって、たとえば「野毛にいいお店がある」「自分の行きつけがある」と、同じ「桜木町」でも片やみなとみらい、片や野毛、という、全く異なる環境がうまく共存していて、歩いて行けるのがすごく魅力的だと思います。関内もそうで、そこにしかないディープな魅力というか文化を、もっともっと勉強していきたいですね。

 

#Why?

舞台が動き出す、その緻密なアサイン能力

副島: 相澤さんを一言で表すなら……この質問、来るだろうと思って、考えてきたんですよ。

ジョージ・クルーニー。正しくはダニエル・オーシャン!

 

相澤: ……観ていない……。

 

副島: えーっ!? 絶対にみんな納得すると思っていたのに……。(気を取り直して)

相澤さんって、映画『オーシャンズ11』(*2)の主人公のダニエル・オーシャンみたいだな、って思うんです。とにかく人脈が広くて、対峙しているプロジェクトに対して適材適所でメンバーをアサインして、詳しく知りたいことにはさらっと新しい人を紹介したり、時間がないなかでもテレビ会議をアサインするなどして、背景や概要説明なしにいきなり要点に入った話し合いをできて。人を紹介された時点ですぐに一つのチームになれる、あっという間に長い付き合いの仲間のように仕事に、居心地良く、同じゴールを見据えて、向かい合える。そんな関係性をつくれるのが、すごいなと。

 

(*2)『オーシャンズ11』:稀代の大泥棒・ダニエル・オーシャンが、難攻不落のカジノの地下倉庫に眠る巨大資金を強奪していくアクションムービー。ダニエルが個性豊かな11人の犯罪チームを集めて、一筋縄ではいかない計画をスリリングに遂行していきながらも、エンターテイメント性にあふれたストーリーは、名作となりシリーズ化された。

 

相澤: 副島さんが話してくださったように、今日初めて会った人なのにいきなり各論から話せる、という環境づくりのために、(チームアップのための)入り口の設計づくりを綿密にやっています。個人に特化して、この人と仕事を進めるためにはどのような状況をつくらないとダメだとか、この人が自由に動けるようにするにはこの武器を渡す、違うルートで入ってきたこっちの人に嫌味なくアプローチして扉をゆるく開けておく、みたいな準備には力を注いでいますね。チームに入ってくるメンバーは、めちゃくちゃクセのある人ばかりなので、きれいにまとめて無害化するプロジェクトは、面白味がないですよね。

 

副島: 『オーシャンズ11』だけでなく、泥棒系のアクション映画って、いろんなプロが出てくるじゃないですか。鍵を開けるプロ、筋肉系の人とか、いろんなタイプのプロが暗い倉庫でみんな集まって、そこから始まるのにすでに一体感があって……でもゴールは一緒!みたいな(笑)。まさにそんな感じですよね。

 

相澤: YOXOは、拠点の整備を終えて、これからベンチャー支援のプログラム運営が本格的に始まっていくので、今後副島さんとYOXOで具体的にお仕事を進めていくということにはならないと思われるのですが、また何かのタイミングで、それぞれが困ったり、何か必要なタイミングに、連絡を取りあうことになるんでしょうね。

 

副島: 気を使わずに、そういう環境になれたら、「ちょっと野毛で……」みたいな感じですかね。

 

「また何か、オーシャンズ11の倉庫の中でしか話せないような、そんなことがあったら、連絡します!」