うちの考えを翻訳して伝えられる。結果的に、取締役。

福井信行さん(株式会社ルーヴィス代表取締役社長)

横浜におけるリノベーション施工の先導役、ポツリポツリと時代の本質を衝く言葉を発する職人肌……朴訥な風貌から抱かせる先入観は、相澤と向き合い語り出す本音に、瞬く間に打ち砕かれる。不動産・リノベーション界を駆け抜けてきたバリッバリの風雲児・ルーヴィスの福井信行さんは、なぜ相澤毅をルーヴィスの取締役に迎え入れたのかーー。

#When?/Where?

福井さんが「福井さん」だったころ。

福井信行さん(以下、敬省略): ルーヴィスを立ち上げたのは2005年10月だから、今は15年目になります。相澤さんに初めて会ったのは、私が実家の不動産屋にいる時だから、お互いに20代のころですね。
 私の実家が営んでいる不動産屋は、祖父の代から数えて60年以上、横浜駅西口周辺の賃貸物件の管理をしてきました。私はそれまでインテリアショップで働き、26歳で入社し、4年半くらい勤めている間に、「不動産屋、やべー」って思って、それが独立してルーヴィスを興すきっかけになりました。

 

相澤: やべー、っていうのは?

 

福井: 横浜駅西口の賃貸物件が増えていくなかで、借り手はどんどん減っていき、賃料が下がっていく。老舗の賃貸管理業者は、築30〜40年くらいのアパートを管理していて、人が入れ替わったら、和室の畳をフローリングにして、既製品のキッチンを入れ替えて、壁紙を張り替えて、リニューアルしていました。リフォームに100万円くらいかけても、物件は埋まらないんです。その状況は20年前ですでに顕著になっていました。このまま同じ業態で不動産管理業をやっていることは、リスクばかりだろうと。
 ちょうど2003年ごろからリノベーションという言葉が世に出始めてきていた。「これめちゃ、おもしれーな」と思って、当時amazonで「リノベーション」で引っかかる本を全て買って読み漁りました。2004年にopen-Aの馬場正尊さんが「東京R不動産」を始めて、不動産業のこれからの流れは、こっちでしょう、と。同じリスクを抱えるのなら、新しいことを始めようと、2005年にルーヴィスの立ち上げにつながりました。
 当時、リノベーションをやるプレイヤーと考えると、ブルースタジオのような設計事務所と、リノベーション物件に特化した不動産情報サイトの「東京R不動産」。この二つは10年後も20年後もトップランナーのままだろうと思った時に、施工屋のポジションがまだ空いているな、そこならば一番を狙えるんじゃないかと思って、ルーヴィスは施工屋としてスタートしたんです。

 

相澤: 私は当時リストに転職して間もないころで、当時の業界は不動産を購入して自社の施工部隊で内装をリフォームして売って歩く、というスタイルでした。そんな時に、リノベーションという価値観が登場し、これは場の力が劇的に変わる、という直感はありましたね。

 

ルーヴィスの福井信行さん。寡黙な職人肌……に見えるが、実はゴリゴリの経営者!

 

#What?

GIH、YOXOの施工はルーヴィスしかない。

相澤: ルーヴィスと本格的に仕事をするようになったのは、2016年、リスト本社5階の会議室のリノベーションプロジェクトからです。リストはそもそも新築のデベロッパー。社内でリノベーションという言葉を発するのが難しい環境にあるなかで、私は“ウルトラ傍流”というスタンスで、一人、リノベーションプロジェクトを手がけるという立場でした。一方で、関内にある自社保有不動産の空室率が増えていくなかで、まずは本丸の本社ビルの一室から手掛けていこうと……そこで、ルーヴィスに初めて仕事をお願いしたんです。建物そのものが持つ躯体の力を生かしたデザインや、施工の技術力に絶大な信頼感があったので。

 

福井: ルーヴィスの当初は、リノベーションに予算をかけられるお客さんは少なかったんです。クロスを張り替えるお金がないから、じゃあ解体した後の既存の躯体そのままを内装にしようとか、天井をはがした後に現れるスラブなども見せたまま、天井高を生かしたデザインにするといった、予算がないなら知恵を出すスキルを磨き上げていった、という感じです。その後、toolboxで展開した「天井アゲ軍団」とか、建物を借り上げて原価でリノベーションをして、高付加価値の賃貸住宅として回す「カリアゲ」など、新規事業を立ち上げていきました。
 相澤さんがルーヴィスに仕事を出してくださるようになった頃には、すでにスタッフが施工や管理の技術を積み上げていたので、相澤さんの信頼は、自分にではなくスタッフに向けられたものですね(笑)。

 

相澤: 本社5階会議室のリノベーションでは、リストの社員もDIYで一緒に手を動かして、床をはつったり研磨したりしたんです。完成後、そこに卓球台をおいてコミュニケーションをはかりやすい環境をつくったり、やがて社員同士がその会議室を使って打ち合わせをまめにやるようになって、会社にリノベーションの舞台ができるなど、明らかに会社の空気感が変わったんですよね。
 G Innovation Hub YOKOHAMAをやる時には、施工は迷わずにルーヴィス、でした。Gについて詳しくは、プロジェクトメンバーの対談を読んでいただくとして、リストグループに施工部隊があるにも関わらずルーヴィスにお願いしたい、というのは、最初から私の中で決まっていたことです。
 だいたいの不動産屋が手がけるリノベーションって、実態はただのリフォームであることが多いんです。「その施工で、リノベって言っていいのか?」というレベルのものが結構あり、本物のリノベーションってこういうことだよ、というのを面前に示す必要があるんですよね。そういう視点でも、Gは圧倒的な差としてその姿を見せつけることに成功したのではないか、と思います。
 先ほど福井さんがおっしゃっていましたが、予算がないお客さんに対して、どうやって仕上げていこうかという困難や難題に対して打ち返していく力というか。それがルーヴィスにはある。躯体が持つ「本物の力」を見逃さない力とも言えますね。

 

リスト本社5F 会議室

 

福井: 例えば、床や壁を「木」として施工する時に、お金がないお客さんに対して、松のプリントを示すのか、安いラワンベニヤを塗装する提案なのか、その違いですよね。近年はプリントが主流で、一見高級そうに見えるけれども、それは偽物ですよね。うちの場合は、お金がないならばラワンを使う。躯体そのまま見せちゃおうよ、その方が本物だから、というベクトルの違いだと思います。

 

相澤: Gが竣工した2019年、そのまま横浜市経済局のベンチャー企業成長支援事業の拠点「YOXO BOX(よくぞボックス)」の施工事業者としてまたルーヴィスとご一緒することになります。plan-Aは三菱地所をはじめとした3社とのコンソーシアムとしてプロポーザルに参加、採択されたわけですが、その拠点となるYOXOBOXの新設工程が、不可能に限りなく近いほど、極めて厳しかったものの、きっとルーヴィスならば何とかしてくれるではないか、という期待が大きかった。

 

福井: YOXOはキツかったですね。でも、これまでに何百件とリノベーションを手掛けていて、年に数件は厳しい物件もあるので、やってできないことはないかな、と。他とかぶらないようにスケジュールの調整には気を使いましたけどね。

 

阪東橋にあるルーヴィスのオフィスにて。ルーヴィスのデザイン思考が滲み出ている。

#How?

ルーヴィスの考えを伝える翻訳者

福井: Gの仕事で設計を手掛けたオンデザインの西田司さんと、Gがきっかけで久しぶりにお会いして、飲みに行ったんです。その時に、西田さんに誘われて、自分がオンデザインの事業アドバイザーになる、という流れになって。ルーヴィスは横浜に拠点があるけれども、実は都内の仕事が7〜8割で、実は横浜の仕事ってそれほど多くはなかったんですよね。でも、西田さんと月に一度会うようになってから、横浜や神奈川ローカルに少しずつ目が向くようになって、「横浜で仕事をするなら、人のつながりは大事だよね」と感じ始めていました。そんな時に、ちょうどYOXOの仕事も始まって、「相澤さんならきっと、ルーヴィスの考えを、人に翻訳して伝えることができる人じゃないかな」と思って、取締役をお願いしよう、と。

 

相澤: 福井さんに改まって「相談がある」と言われた時には、「あれ、俺、なんかやったっけ?」って怖かったんですけど(笑)。純粋に光栄だな、と思いました。ルーヴィス取締役の就任についてSNSで発信したら、施工や工事の相談がめっちゃ来るようになりました!(笑) すごい波及効果だな、と。

 

#Why?

自分が苦手な「ハブ」の役割を担ってほしい。

福井: 相澤さんって、一言で表すならば「ハブ」ですよね。自分は積極的にいろんな人と会う感じではないし、特に同業者、工務店の人とはほぼ会わないです。特に僕は誤解を持たれがちというか(笑)。さっきも、寡黙な職人っぽいって言われたけれど、そうではないし。相澤さんは、その辺ちゃんと理解してうまく伝えられる人なので、結果的に「一緒にやんない?」って声をかけたという感じですかね。
 相澤さんとの付き合いはだいぶ長い、それこそルーヴィスを始める前からだから。この1年くらい、GやYOXOで一緒にやらせてもらっていますが、たとえ密度が薄くても長く一緒にいられます。普段、それぞれの時間で仕事をしていて、ギュッと会える時には一緒にやろう、という感じです。

 

相澤: 自分はとにかく人に会って、その時にお互いに炸裂して新たなものが生み出されていく感じの仕事の仕方ですが、福井さんはそういう感じではないので、やり方の部分だけみれば性質や思考は自分とは異なるかもしれない。だけど、真逆ではないというか。福井さんは自分からするとクリエイター。彼が投げてくるボールに違和感はないんです。手触り感をちゃんと持っているといる方なので。

 

福井: 実は今、国内でのリノベーション事業についてはある程度やり切った感があるので、次はまた新しいことに取り組みたいと思っています。そんなこんなも、また、相澤さんと話していきたいですね。

 

「ルーヴィスの施工に対する信頼度は、抜群ですね。工期が厳しい現場でも、一つも不安に思ったことはない」(相澤)「それ、自分じゃなくてスタッフです(笑)」(福井)