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関内での創業・創造を親子で体験!YOXO FES 2025にplan-Aが投げかけた問い
2019年、関内に誕生したベンチャー支援企業育成支援拠点「YOXO BOX」(よくぞぼっくす)。横浜市が掲げる「イノベーション都市・横浜」を体現する拠点・機能の設立と運営にplan-Aが共同事業体として携わり5年が経ちました。
2025年1月24日・25日・26日、みなとみらい21地区と関内地区をフィールドに、スタートアップによる技術実証や未来をテーマにした展示やワークショップなど、「未来」にふれられる3日間として「YOXO FESTIVAL(よくぞフェスティバル)2025」が開催されました。plan-Aはそのうち関内地区の「さくら通りOPEN! in YOXO FESTIVAL 親子おしごと展」とトークイベント「〜スタートアップと考える〜『未来の子育て支援』シンポジウム in YOXO FESTIVAL」を担当。オフィス街でもある関内で、「子育て」を軸に横浜のスタートアップ、ベンチャーに対してどのような問いを投げかけていったのでしょうか。
■ 関内の地図を片手に、「おしごと」探しにGO!
2025年1月25日。土曜日の朝の関内駅は普段とは異なり、のんびりと穏やかな空気が流れていました。くっきりと青く澄んだ空の下、関内の横浜スタジアムを中心に、建設中の旧横浜市庁舎と、尾上町通りを挟んで横浜港方面に延びるさくら通りやベイスターズ通り。そこに、何組かの子ども連れが颯爽と歩く姿が見られます。平日のビジネスパーソンの動く波とは明らかに異なる光景です。
親子連れが入っていったのは、旧市庁舎向かいにあるYOXO BOX。ここは「親子おしごと展」のスタート地点であり、YOXO FESのトークセッションエリアでもあります。ガラスの扉を押し開けると、そこには横浜で「おしごと」を始めた企業・団体の「おしごとパネル」が4枚。plan-Aスタッフの案内を受け、ボードと鉛筆、地図を片手にまちに出て、関内エリアの「おしごと拠点」を4カ所巡り、12問のクイズに答えます。
“AIとひとがうみだすおしゃべりで、「なにをふやすおしごと」?”(オールコンパス株式会社)
このクイズには“AI”という言葉が出てきます。小学校高学年の女の子は、パネルを見ながら「“なかま”かな?」「“しあわせ”かな?」と答えを探していきます。
YOXO BOXで4つのクイズに答えた後は、地図を片手に横浜スタジアムに向かいました。地図に表示された写真と番号を目印に、次の目的地「THE BAYS」に向かいます。THE BAYSは日本大通りの入口にある旧関東財務局横浜財務事務所をリノベーションしたコワーキングスペースで、現在は横浜DeNAベイスターズがスポーツ×クリエイティブをテーマに活用している拠点です。1Fのショップ&カフェを覗きながら階段をのぼり、いつもは大人が仕事をしているコワーキングスペースで、パネルを発見。
“THE BAYSは、なんのスポーツの「みりょく」をしってもらうおしごと?”(THE BAYS)
「これはわかるっしょ!」と言いながら、なぜか「サッカー」に丸をつけている子がいましたが……。目の前にある「ボールパーク」がヒントですね。「やきゅう」と正解を答えた子を見て、スタッフさんもほっとした表情でした。
■ さくら通りOPEN!では、道の真ん中で焚き火? バスケットボール!?
その後、横浜公園沿いにみなと大通りを戻り、入船通りを進んで関内さくら通りに入ります。距離にして50メートルほどですが、車道が封鎖され、そこでは楽しいアトラクションが!
横浜のプロバスケットボールチーム・横浜エクセレンスによるシュート体験や、オールコンパス株式会社によるミニ四駆体験、株式会社パパカンパニーによる焚き火と焼きマシュマロといった屋外イベントに、オンデザインイッカイでは模型ワークショップ、さらにエシカルパソコンZERO PC(運営会社 ピープルポート株式会社)による「ZERO PC販売会&パソコン分解ワークショップ」が行われていました。
さくら通りに入ると、子どもたちはクイズよりも遊びに夢中! 立ち止まってはミニ四駆を選んでレースに挑んだり、シュート体験の列に並んだり。普段は自動車の交通量も人の行き交う量も多いさくら通りの真ん中で、焚き火を囲みながらアウトドアチェアでのんびりマシュマロを焼けるなんて、いったい誰が想像できたでしょうか。
「これもお仕事なんだよ」と言いながら自分の「好き」を発揮している社長さんたちのイキイキした笑顔を見て、子どもたちも「これがお仕事?」と不思議な表情です。「いつもパソコンに向き合っているだけが仕事じゃなくて、お休みの日に人と交わりながら、自分のお仕事が目指している風景を伝えることも、大事な仕事なんだよ」と子どもに解説する同伴者のお母さん。その場に居合わせた大人同士でも「普段はどんなお仕事をされているのですか?」などと会話が弾みます。
“なにをデザインするおしごとかな?”(オンデザイン)
「オンデザインイッカイ」では、建物をデザインする建築事務所らしくおしゃれな空間で、模型作りに熱中している親子連れがたくさんいて賑わっていました。
さくら通りを挟んで向かいの「泰生ポーチ」も横浜で起業した方々が入居するビルで、その1Fはオープンスペースとしてさまざまなイベントやカフェなどに利用されています。ここが「親子おしごと展」のゴール地点。
“こどもたちの、なにをおてつだいしているのかな?”(株式会社ピクニックルーム)
「子どもたちが未来にはばたくためのおてつだい」をしている人たちが、横浜には、関内には、たくさんいるーー。「親子おしごと展」でたくさんの「問い」を受け、考えることを通して、ここで働く人たちは未来をつくるため、幸せを届けるために、さまざまな方法で「おしごと」をしているんだ、と子どもたちは学んだようです。
■ “子育て”を軸にスタートアップが語る
さくら通りOPEN!での盛り上がりの一方で、YOXO BOX内でも熱い議論が行われていました。YOXOイノベーションスクール長の伊藤羊一さん(武蔵野大学 アントレプレナーシップ学部 学部長)をモデレーターに迎え、トークセッションを実施。「〜スタートアップと考える〜『未来の子育て支援』シンポジウム in YOXO FESTIVAL」というテーマの通り、登壇者をつなぐ横の線も、壇上と客席をつなぐ縦の線も「子育て」で結ばれ、子どもたちが親と一緒の空間でトークを味わう、一風変わった趣向でトークがスタートしました。会場内にはキッズルームが設けられ、そこでタマコロガシができたり、もちろん大人の隣でトークを聞くこともできます。
登壇者は”対話”に着目したサービスを自動車業界向けの営業マーケ支援サービスとして事業展開しているオールコンパス株式会社代表取締役CEOの松岡直紀さん、多様性と安心感を備えたAIを活用し新しい人間関係の構築や没入的な体験を提供するとれしん株式会社代表取締役・平松猛男さん、不妊治療のすえ超高齢出産を経験し育児支援サービスアプリを開発中のママノートの岩崎まどかさん、保育事業・子ども事業を展開しながら地域福祉や企業運営の連動を構築している株式会社ピクニックルーム代表取締役の後藤清子さん。
まずは伊藤さんから、「子育ても含めてどうやって関内をまちとして盛り上げていくか?」という問いから、登壇者がそれぞれ事業を紹介していきました。
岩崎さんは東京が拠点。関内を「歴史を感じながら子どもと散歩したら楽しそう」としたうえで、「この100年に技術や社会は進化してきましたが、育児の課題感は軽減できているのでしょうか。100年前から変わらずに言われている育児のしんどさを、みんなが通ってきた道だからと片付けるのではなく、未来を変える大きな力にしていきたい」と話しました。
松岡さんはAI、DXを強みにマーケティングや顧客対応サービスで起業し、一方で6歳と3歳のお子さんの育児中でもあります。「元々、自動車産業にいましたが、スポーツも好きで仕事にしてきた。今、改めて自分にとっての“日の当たる場所”で仕事をしていこうと決心しました。今日は関内さくら通りでミニ四駆を走らせています。親世代から子ども世代まで車にふれられる休日を過ごしていただきたい。それをBtoCの事業として立ち上げようとしています」と、自身の強みと、子育て経験を活かした事業への転換を紹介しました。
平松さんは本牧エリア在住で、「関内はこれから賑やかになりそう」と期待感を寄せます。「私の事業ではAIキャラクターを使って、人とAIが親密な関係をつくれるような社会を作りたいと考えています。番組をAIで自動生成してストリーミングで流したり、リアルタイム交流キャラクター技術を開発しています。現在、お子様を支援する事業を企業様と一緒に開発中です」と話しました。
後藤さんは関内での保育施設運営をコアに、子ども自身の学びや体験の場の提供、企業の子育て支援、親の支援等、多岐に渡り子育て支援事業をおこなってきました。「子どもが生まれたら18歳の成人まで、一気通貫した支援が必要。現在、ペアサポという企業向け子育て支援事業を開発中です。企業の中で子育ての課題を聞いて、私たちの方でアドバイスやコンサルティングを実施しています。子育て支援事業は単独一社で行うのには限界があり、このほど、NPO法人コドモトさん、株式会社Coannaさんと、保育および子育て支援事業において業務提携を開始することにしました」と発表。
■ ビジョンと協業(コラボ)の関係性
これを受けて伊藤さんは「ビジョンが抽象化されていると協働化しやすい。日本はどうしても“我が社は”になる。そうすると組みづらい。そこを突き抜けた時に協業は明らかにしやすくなると思いました。起業家は忙しくて朝から夜まで足元に集中してしまいがちですが、その先にある、大袈裟にいうと人類のためになるものをどう考えていくのか?について、起業を志す人はリアルな実感を持っていくとよいのでは」と問いかけました。
松岡さんは「起業した時に“人が輝く時間をつくる”というビジョンを持ちました。改めて自動車産業に行き着いた時に、“人が輝く=車って楽しいよね”になりました。今、お子さんが車に対して興味を持たなくなってきています。私は自分の子どもにサラブレッド流に常に車に触れさせています。やっぱり車って面白い、人が輝く時間は笑顔になるな、と。協業の前にビジョンに賛同していくことが大切だと思います。ベンチャー企業は人もお金もないなかで、ふと我に帰ると“なぜこれをやっているのか”となりがちですが、オフィスのホワイトボードに“人が輝く時間をつくる”と大きく掲げて、疲れた時にこそそれを思い出すようにしています」と話しました。
一方、平松さんは「最近AIが発達してビジネスチャンスがあると思って起業したので、元々解決したい課題やビジョンがあったわけではない」と明かします。「走り出して自分が好きなことをやっていくなかで、どうやって事業展開していこうかと。課題解決型の企業ではないが、課題はあると前に進みやすいとも感じます。私が中心にとらえているのは“体験創造型”。いかに人の感情や心を揺さぶるようなコンテンツを、AIを使って提供するか、そしてその先に教育コンテンツの話があります。どっちの道に進むのかわからないがとにかく走り続ける」と言います。伊藤さんは「構造を明確にしようとすると、まずは高いビジョンを持ちましょうというのが正解みたいにある。もちろん、ビジョンから入る人もいます。でも、ここにビジネスチャンスありそうだとやってみると、“こういうことかな”と、じわじわと抽象化されていき、やっていくうちに収斂していくこともある」と言いました。
岩崎さんの「育児に限らず同じ業界、IT、ベンチャーと、協業して仲間としてやっていくと社会が良くなると思う。後藤さんの協業に共感します」という話に対して、後藤さんは「上位概念が共感し合える3社と提携したことで、私たちはさらに強くなれます。新しい雇用は価値観のすり合わせから始めるのでリスクもありますが、協業によってもともとの価値観のアップデートができることがわかっているので、そこで様子見しなくていいし、コミュニケーションコストが削減されます。上位概念しかなく、心理的安全性が担保されているので、ワクワクしかないです」と重ねます。
伊藤さんは「コラボすることが目的化することもあるが、いいコラボは、“これを解決するため/これを実現するために”という目的がある。私たちはこれが強くて、自分たちの弱いところをカバーしてくれるのはこの人、というのが明確になるとよい。コラボという方法論に依存すると弱いので、私たちはこれだ、と強みを持つことが大切。コラボとはあくまでも方法論で、手段、作業でしかない。ここ20年くらいコラボとはなんなのか悩んできたものが、それが今日解決しました」と明るい表情で語りました。
■ 夢中になれる「おしごと」、その背中を子どもに見せられるのか?
起業家たちによる「未来の子育て支援」のトークセッションの最後に、plan-Aの相澤毅が「YOXO FESは本日、関内ではこのトークイベントの他に、さくら通りOPEN!と親子おしごと展を開催し、まちのなかを巡りながら親子でお仕事を答えていく。ぐるーっと一周していくと、“おしごと”がわかる仕組み」と紹介。伊藤さんは「関内ならではの、横浜ならではの子育て共助についての超具体の解は、この“親子おしごと展”だと思います。ここから枝葉、骨をつくっていけるとよい」とまとめました。松岡さんは最後に、「当社がベンチャー企業として、子育て、お父さんお母さんと一緒に子どもさんと遊ぶというのを、さくら通りOPEN!で我々は形にしたつもりです。このミニ四駆体験のコンテンツを、関内のどこにも持っていけるようにました。車と子育て、文化、みたいな組み合わせのイベントができるはずです」と呼びかけました。
その言葉で改めてさくら通りOPEN!に戻り、子どもたちが目を輝かせながらミニ四駆を走らせている姿を見ると、大人もそれに刺激され、車の面白さに改めて目覚めていくのを実感できます。「お父さん、お母さんも、車で楽しむことを忘れていませんか?」という松岡さんの問いかけに、“人が輝く時間をつくる”というビジョンが目の前で体現されているのを感じました。
株式会社パパカンパニー代表取締役の添田昌志さんは、さくら通りで焚き火をおこし、焼きマシュマロで親子がまったりと温まる時間を提供していました。添田さんは子育て情報サイト「あそびい横浜・湘南」と「よこはまこどもカレッジ」を運営する一方で、一級建築士・研究者としての仕事も持ちます。「研究者として極めて純化した仕事だけをしていたら、おそらく知っている人の幅が少なくなり、それはリスクになるかもしれません。大人として、どれだけリスクをとって羽ばたいていくのか、創業支援の場合はその選択肢が幅広いと思います。地域で助け合いながら、いいマインドをもって世の中をよくしていきたい。そんな気持ちを共有できる人たちと、いい時間をつくれるのが創業の醍醐味なのかもしれません」と話してくれました。
オンデザインイッカイでは、「親子おしごと展」の時間が終了しても、模型づくりに熱中してなかなか帰らない子どもの姿がありました。オンデザインのスタッフたちがつくった、精巧な模型のパーツは、子どもの創造性を大いに刺激したようです。集中して自分らしい模型をつくる子どもの姿に、本来の仕事とは労働時間を捧げる苦しみではなく、時間を忘れて夢中になれるものなのかもしれません。そんなふうに、親がワクワクしながら夢中になって仕事をしている背中を子どもに見せる。子どもはそんな親の仕事の隣で生きる。それが実現できるのが、関内のまちなのです。
「親子おしごと展」を終えた子どもたちからは、こんな感想が寄せられていました。
“こういう人を楽しませるしごとがあるのがびっくりしました。”
“かんないをしることができました。またやれたらいいなとおもいます。たのしかったです。”
“あまり仕事とかにきょうみをもっていなかったんですけど、こんかいのイベントでたのしくしることができました!”
“おしごとをして、だれがよろこぶのかが分かりました。しょうらいやりたいことがふえた”
「親子おしごと展」には、一過性のイベントでは終わらない、これからの「地域と子育てと仕事」の新たな軸があるーー。YOXO FES 2025を起点に、このまちで確かに育まれている目線が交差し、創業と協業という新たなスタートアップの可能性が開かれていったはずです。