仕事に関わる一人ひとりが人生をかけた熱量で取り組む〈セルディビジョンインタビュー後編〉

セルディビジョン
服部大吾さん(取締役、ブランドクリエイター)
木部輝昌さん(マネージャー、ブランドクリエイター)
辻浩史さん(マネージャー、ブランドクリエイター)
三宅舞さん(ブランドクリエイター)
小牧美久さん(元スタッフ)

相澤が「ご指名」というくらいに信頼している、横浜のデザイン・ブランディング会社「セルディビジョン」。前編ではリスト時代の仕事からセルの基本姿勢を読み解き、後編では相澤がplan-Aを立ち上げて以降のプロジェクトを概括する。服部さん、木部さんに加え、辻浩史さん、三宅舞さん、元スタッフの小牧美久さんの証言から、セルディビジョンとplan-Aの関係性を明らかにしていく。

#How?

Plan-Aの指パッチンが生まれたわけ

── plan-Aとして独立したのが2018年。会社のアイデンティティとも言える「ロゴ」は、セルディビジョンが手掛けました。

 

相澤: plan-Aのロゴや名刺については、最初に走り出した時には自分でつくっていたのですが、あらためて整えようと思った時に、セルディビジョンに依頼しました。
木部さんとロゴと名刺の話をしている時に、「plan-Aとしての動きや働き方に、遊びがない、真面目すぎる。肩の力を抜くために描いてみた」と言われたのが、「指パッチン」マークで。それも即採用しました。セルは、自分にとって感覚的にはコンサルですよ。自分のことを長らく知っていて、対外的にもきちんと見えていて、私の仕事をどう伝えたらいいのか、「0.75歩先」の提案ができる。この指パッチンは、評判いいし、私の仕事を説明しやすいですね。

 

plan-Aイメージ

 

木部: 企業のCI(コーポレートアイデンティティ)やロゴをつくる時に、クライアントにお話を聞いて、ビジョンや思い、やっていくことを形にすることは変わらないです。相澤さんは以前からの付き合いがあり、Facebookでも活動や普段の生活を見ていました。plan-Aは相澤さん一人の会社になるので、会社の人格というか、plan-Aらしさ、相澤さんらしさが自分の中に落ちていました。相澤さんと付き合っていくとワクワクする、おもしろい、気づきがある。同時に、相澤さんって仕事や興味の領域が広すぎて、初対面だと「何者ですか?」という状態になる。普段、クライアントの仕事を伝える時に、ステートメントやキャッチコピーといった短いものにまとめることもあります。しかし、相澤さんのことは、一言では説明できないし、変にきれいにまとめるとウソになっちゃうなあと思って、説明するのをやめよう、と思いました。plan-Aのもつワクワク感、何かの期待、イノベーションの感覚みたいなものを、パッと言葉で伝えられなくても感じられるものはなんだろう、というのを意識して、ロゴに落としていきました。

指パッチンは、早い段階でアイデアがあったんです。最初はハイタッチだったんです。でも、実際に描いてみたら躍動感がなくなるし、そもそも相澤さんはハイタッチしなそうだな、と(笑)。そうして考えたら、出てきたのが指パッチンだった。何か注文するとか、合図、曲が始まるタイミングだったり……。そうしてあらためて聞いていくと、指パッチンは、はまりそうだな、と思ったんです。

 

相澤: 指パッチンのアイデアは、そもそもまず自分から出てこないものです。「相澤さんは圧も押しも強いから(笑)、肩の力を抜くべき」と言われて後押しされたことに、自分としてのテンションがあがったし、納得感が大きかったですね。

 

 

当時の提案書。相澤さんの性格も考慮して、企画書は2行程度で伝えるものに。

 

── 相澤さんは、アウトプットはもちろんですが、何よりプロセスを大事にしますね。仕事相手が、自分のことをすごく考えているのがわかるから、ダメ出しすることがまずない。

 

相澤: 意識にずれがなければ、出てくるアウトプットに不安はないです。それはプロの仕事でしょう。素人がどうこういうことじゃない。一方で、自分がパッと引いた目で見た時に、直感的にどう思うかは大事にしています。

 

#What?

ロゴに込めた制作プロセスそのものが、「G」の魂

── G Innovation Hub YOKOHAMAのロゴデザインの話に移ります。「G」のロゴはとても力強く、かつシンプルですが、その制作プロセスはかなり入念であり、さまざまな文脈を組み込んだものになったそうですね。

関連記事:リストグループの数年後を見据える慧眼

https://plan-a-02.co.jp/interview/interview04/

 

辻: 「G」の仕事は、リストが施主で、横浜の関内駅すぐに位置するシェアオフイス開発のプロジェクトで、設計、施工、事業構築などさまざまな面で横浜を代表する方々とご一緒させていただけた、とても面白い案件でした。

この場所のネーミングの経緯については、当時、プロジェクトメンバーでの「懇親飲み会」に誘われ、行ってみるとそこは、飲み会兼、ネーミング開発合同ワークショップでした。相澤さんに早速仕組まれた!と思ったのを今も覚えています(笑)。

その会の際、僕らのチームは関内という地が、元々外国との往来の関所だった歴史的背景から、関所の内側あたる=関内だとを知り、それにちなんで、ネーミングを「Gate ゲート」と提案しました。

 

セルディビジョン:辻浩史さん(マネージャー、ブランドクリエイター)

 

ネーミングと並走してこの場所の在り方についても徐々に明確になっていきました。様々な想い、職種、年齢、文化や国籍も違う方々が、このGate(門)へ来ては、また出ていくような、通る前と後とで何かが生まれる、その人の人生の関所のようなところなんだと。まさにこの地にふさわしいコンセプトがプロジェクトメンバーの皆さんはもちろん、リストの方々も巻き込みながら核心的に浮かび上がってきました。

そういったことから派生し、最終的には様々な意味を持たせて頭文字の「G」となったわけですが、この場所にふさわしいロゴ、グラフィック表現としてどういったモノがよいのかをずっと考えていました。

そうして、今回の徐々に出来上がったこの場所の在り方や想い、プロジェクトメンバーと経てきた事柄をデザイン自体にではなく、ロゴをつくる過程に落とし込むことにしました。

 

 

手法としては、日本はもちろん、世界の様々な用途・時代背景・土地柄・歴史・文化……等々から生まれた書体を選定しながら、かき集め、一つに重ねてみるというものです。

例えば、ドイツの工業用途から生まれたとされる書体、石板に彫った聖書に使われていた書体、装飾的なモノ、機能的なモノ、変なモノ……。世界の書体を見渡すと、いろいろな文脈のなかでさまざまな想いや意図で生まれてきた過程が、今回の「G」のプロジェクトのプロセスとリンクした気がしました。

また、改めて書体の歴史やフォルムなどに向き合える良い機会になりました。

「G」のロゴは、一見するとシンプルな「G」でしかないんですが、よくみると違和感のある「G」になっている。ゴシックでもなければ明朝でもない、すごく変な「G」。半分偶発的に生まれたこの「G」にはこういった背景があるんです。

今ここにいる人たち、これからまたどこかに旅立つ人、いろんな人が重なっていって、この場がいつまでも出来上がらない、変わっていく様を落とし込めたのかなあ、と思いました。

 

 

相澤: 「G」のネーミング飲み会のようなものは、自分がプロジェクトで回しているものでは基本的に全部やっていることなんです。「G」は特に関係者が多く、横浜でも多様な仕事を手がけている有名な方々なのに、名前を聞いたことはあっても実は直接的な面識のない人たちで、彼らを引き合わせるねらいもありました。プロジェクトメンバーをつなげること自体が、「G」のハブとしての機能の本質論でもあります。

結果的に生まれたロゴは力強く、「G」がハブになることを体現しています。ステッカーとして使っているもののなかには、プロセスとして様々なフォントを重ね合わせているものもあり、それがまさに「G」のDNAを色濃く体現していて、「G」のコンセプトを説明するのに威力を発揮します。「G」の開設から1年経ち、入居者に限らずいろんな人の価値が混じり合う状況が色濃く出ています。それは不思議な感じでもあり、目指していたものでもあり、想像を超えているとも言えます。

 

 

#Why?

「愛情」をもって、提案側もクライアントも一緒にのびる

── そして、現在取り組んでいて、いよいよリリースしようというタイミングなのが、工務店の「桃山建設」のリブランディングのプロジェクトですね。

 

相澤: 桃山建設は、私が理事を務めるNPO法人森ノオトの総会や、建築系の別の集まりで、専務の川岸憲一さんから、都筑区池辺町にある自社の木材加工場のリノベーションについて相談を受けたことがきっかけで始まりました。お話をお聞きすると、物件のリノベーションだけでなく、本社の組織体制も含めたリブランディングが必要だと考えました。リノベーションについてはプロジェクトマネジメントを手がけつつ、CIやVI、ロゴの再提案をセルディビジョンと一緒に提案していくことにしました。

桃山建設のリブランディングは、服部さんを軸に、実働は小牧さんと三宅さんに担当してもらったのですが、プロセスの中でいろんな方向性の変換が起きたので、二人は大変な思いをしたと思います。でも寄り添い方がこの二人だからよかった、とも言えます。

 

桃山建設ロゴ

 

小牧: 桃山建設さんのお仕事は、服部が上長で、私がディレクション、三宅がデザイナーという形で入りました。最初に相澤さんがお話をいただいた時に、リブランディングとしてどれくらいの規模のことをやっていくかが決まっていなくて、全社員でやるのか、トップだけでやるのか、いろんな選択肢があるなかで、幹部で統率をとってリブランディングをやっていく方向性に決まりました。4人の幹部の方にヒアリングをしたりワークショップをやるなかで、会社の理念や根幹の部分を決めて、次にどういうロゴマークやVIにしていくのかという流れをつくっていきました。結果的に丸一年かかった仕事になります。

セルディビジョンのブランディングは、まずはビジョン、ミッション、バリューの言語化をしてマインドアイデンティティを明確化し、そしてロゴマークや名刺などの展開ツールのビジュアルアイデンティティ(VI)をデザインするというのがひとセットの成果物です。会社のロゴマークができ、社内に浸透させていく言葉もはっきりしたので、やっと池辺町のリノベーション物件のロゴマークやウェブをつくっているという段階です。

 

小牧美久さん(セルディビジョン元スタッフ) 今回の取材は特別ゲストとしてお話しいただきました。

 

 

三宅: 桃山建設は、既製品に頼らずに自分たちで木材を加工して、手作り感や造作感を大事にしていて、そうしたプロセスを経てできた家は、住んでみて感動するんです。住み続けていくなかで、その家の住みやすさに気づいていくところが桃山建設の住宅のよさとも言えます。社員の中で何か一つ、みんなで掲げられる旗印みたいなものが必要だなと思って、「桃山」という会社の名前をあの形で表現したのがロゴになります。

 

セルディビジョン:三宅舞さん(ブランドクリエイター)

 

小牧: セルディビジョンのデザインで、ロゴのなかにコンセプチュアリーな意味を込めることもありますが、桃山建設の場合は三宅と二人でプロジェクトを進めるなかで、デザインも言葉も絶対にシンプルな方がいいと考えました。コンセプチュアルに思いを語るものだと、口で説明して伝えていかなくてはならない部分も出てきてしまい、それでは職人さんたちが使いにくいものになってしまう。私たちのなかで、そういう共通の思いがありました。ロゴは3種類提案したのですが、見たら形も意味もシンプルでストレートなものを心掛けました。桃山建設は社名自体が「桃」と「山」という名前の強さがあり、川岸さんに「家紋にしたいくらいだ」と気に入っていただいてきました。

 

三宅: 「一生使う」と言っていただけたのが本当にうれしかったです。

 

 

 

相澤: 3案のロゴを、4人の幹部と、セルディビジョン、私とで検討したんですが、みんな意見が見事にバラバラで(笑)。川岸さんが「10年経ったら変えちゃうかもしれない」と言った時に、最終的に決定したあのロゴは、彼らの感覚としては家紋に近いもので、それを俺たちが背負っていくという思考なんだなというのが、あの時に明白にわかった感じがありました。その思考ならその案でいいなという納得感がありました。

この対談の冒頭で、セルの出してくる提案には捨て案がないというのが、この事例で如実に出たように思います。桃山建設の場合は特にメンバーによってロゴの推しが違い、しかしながらセルの徹底的な「寄り添い型」の誠実さがより響いて、ストレートな案に決まったというのが、自分も体験したことのない感じでした。

 

小牧: 私はこの仕事を始めた時にディレクターになったばかりで、初めて仕事をまとめる案件でした。実は桃山建設さんの仕事のファーストステップで、お客さんのニーズに寄り添うヒアリングや説明がうまくできなかったという失敗があったんです。だからこそ社内でも三宅との意見のすり合わせをお互いが納得いくまで何時間もかけてったり、川岸さんにお見せする前にコピーライターさんとも普段以上に入念に、ガチで意見をやりとりするといった形で、すごい仕事量でした。

 

三宅: 最初の方につまずいたことが逆によかったかもしれません。私たちにとっては、桃山さんにとってこれがベストだと思ったから提案書を持って行ったのですが、受け取る相手がそれを見た時の顔、声のトーンで判断して、もう少し違う声のかけ方や提案の仕方があったなあ、という反省があり、そのプロセスの一つひとつを、相澤さんが丁寧に教えてくださいました。厳しい言葉ではありましたが、最初でつまずいて学んだことで、お客さんとの付き合い方も、もう一度自分の中でも見直せて、それを通して成長でき、他の案件にも生きています。

 

 

相澤: plan-Aの仕事の仕方として、桃山建設のプロジェクトに関わらず、プロジェクトに関わる方々のストレッチ(伸び代)になる動き方が基本なので、いわゆる小手先のこなし仕事みたいなプロジェクトは一つもないんです。0.5歩、0.75歩を進めるには、提案側も含めた全員がストレッチをかけないといけないんです。普通じゃそこまでやらないでしょうという熱量を仕事には常に求めています。

彼女たち二人が実働の本丸であることは承知していて、デザインといったアウトプットには信頼を置いています。そこに至るまでの人と人のやりとりの関係における観察力、想像力、イマジネーション、温度感みたいなものを感じとる力に関しては、そこのスキルが上がらないとそれを伴った提案にはならないだろうということで、その育成はゴリゴリやりました。観察力と想像力はコンサルの必須スキルなので、経験値が必要ということですよね。

 

小牧・三宅: まさに、「愛情」を持って導いていただいたな、と感じていますし、それがデザインのアウトプットだけでなく、クライアントの方との接し方、提案の仕方ということにも生き、成長させていただいたな、と。

 

── まさに、リノベーションを通じてリブランディングしていく、相手も自分たちもストレッチして、0.75歩先を見つめていく。セルディビジョンとplan-Aの「いい関係」が見えた対談になりましたね。

 

 

→ インタビュー前編『伴走しながら共創していくパートナーとして。』