組織をストレッチさせて伸び代をつくり、バランスさせる能力

北原まどかさん(特定非営利活動法人森ノオト 理事長)

横浜市青葉区でエコロジーなまちづくりと情報発信で存在感を示すNPO法人森ノオト。子育て世代の女性が活躍するNPOで、今年度から相澤は理事に就任した。不動産・まちづくり・建築の分野でのクリエイティブプロデューサーという立場で、一人で20足以上のわらじをはきながら高速回転している相澤が、「パパ」としての素顔を見せられるのが、ここ森ノオトでの仕事。「めっちゃご近所さん」という森ノオト理事長の北原まどかさんと、公人・私人として、どう付き合っているのか。

#When?/Where?

エコ建築の勉強会、帰り道に「同じ77年生まれじゃん!」

北原まどかさん(以下:敬称略): 森ノオトは横浜市青葉区に拠点を置くNPO法人で、ローカルメディアの運営と市民ライターの育成、情報発信からつながった様々な人や団体、行政などとの協働を通して、「持続可能な地域づくり」の様々な提案をおこなっています。 相澤さんと出会ったのは、確か2013年だったかな。横浜市の有志が集まるエコ建築の勉強会にプレゼンターとして参加した時が初めてです。

相澤さんとはそのイベントで、実は同じ1977年生まれということがわかって、意気投合しました。まずはfacebookでつながって、私が横浜北部方面のおもしろいイベントやエコ建築関係の情報を発信すると、ぐいぐい食らいついてきて(笑)。そして、数日後にもうその現場にいる。なんて行動力のある人なんだろう、と驚きました。

 

その後、2015年に森ノオトは日立環境財団の助成を受けて、エコハウスで有名な建築家の竹内昌義さんをお招きして、「エコDIY」について考えるワークショップをおこなうんですが、そこから相澤さんの森ノオトでの存在感が増してきます。「エコDIY」は、住宅の省エネや断熱を、できるかぎりDIYでやっていこうという取り組みで、それを女子がやるのが新しい、おもしろいのかな、と。省エネはDIYだけで実現できるものではないから、地域の工務店の力を借りて、プロの力を地域で発揮してもらい、そこで顧客につなげるような地域経済循環が生まれたらおもしろいなあ、と思っていました。断熱性を高めるための内窓をつくったり、天井に羊毛断熱材を敷き詰めてみたり、いろいろやりましたね。エコDIYのプロジェクトを、影に日向に応援してくださっていたのが相澤さんです。

 

仕事をご一緒するようになったのは、2016年からです。相澤さんがリストグループ時代に手がけた「nococo-town」のコンセプトブックの一つ、「ハーブシェア」の冊子を森ノオトでつくりました。何度か現地に行き、リストが産学連携をしている横浜薬科大学の先生に監修していただきながらハーブについて知識を深めつつ、家庭でハーブを楽しむレシピや、ハーブで地域の人とコミュニケーションを楽しむアイデアを提案し、それを1冊の冊子にまとめました。私が編集として、森ノオトのメンバーが撮影やレシピ提案をして、森ノオト力を発揮できたクリエイティブワークになったと思います。

 

一般社団法人青葉台工務店に加盟する工務店4社の力を借りてDIYした森ノオトの拠点「森ノハナレ」にて。相澤の自宅リノベーションはそのうちの一社、富士ソーラーハウスが手がけた。

徒歩1分、スープの冷めない距離の超絶ご近所さん

相澤: 私が青葉台に引っ越してきたのは2017年の夏です。初めての子どもが生まれて、妻が職場に復帰して働くことを考えると、彼女の職場と同じ沿線では青葉台しかありえないと思っていました。駅近の中古マンションを購入してリノベーションしましたが、それを手がけた建築家も工務店も森ノオトのネットワーク。しかも、その家がまどかさんの自宅のすぐ近くで、まどかさんがちゃっかり契約前の内見に同行するという(笑)。

 

北原: お隣の集合住宅なんですが、本当に徒歩1分のご近所さんなんですよ。 相澤さんの愛娘の「のんちゃん」と、我が家の次女は3歳差なんですが、保育園もたまたま隣り合っていて、登園・降園時間が一緒になることが多いです。朝はパパが姫様抱っこでのんちゃんを抱えてスタスタ歩いていく、夕方はママが自由に動き回るのんちゃんを見守りながらのんびり歩いていく、そんな日常の風景にご一緒しています。

 

相澤: まどかさんは、間違いなくプライベートに一番近い人ですよね。おそらく自分は外からは仕事ゴリゴリしている姿しか知られていないんでしょうが、まどかさんは娘や妻に対して鼻の下がのびている姿を日常的に間近で見ている。のんちゃんにデレデレしている素の私と、鬼の仮面をかぶって突っ走っている仕事モードの私が、実はそれほどギャップがないということを、違和感なく知っている数少ない人です。

 

北原: そんなわけで、ご近所さんになったこともあり、2019年度から森ノオトの理事をお願いする流れになったんです。

 

相澤: 青葉台に引っ越してきたのは、妻の通勤のことを考えたのが第一でしたが、森ノオトの存在も大きかったんです。妻はスーパー人見知りで、友達が少ない地域で、初めての子育てをすることになる。そんな彼女をどう地域に馴染ませるかが我が家の課題で、そんな時に、女性のコミュニティで、かつ地域で圧倒的な存在感を示す森ノオトがあるという安心材料が、住処を選ぶ基準の一つになりました。

出産後、森ノオトと青葉区が一緒におこなっている「Welcomeあおば子育てツアー」に妻が参加したのですが、あれは本当に素晴らしい事業だと思います。初めて子育てする人が赤ちゃんを連れて、地域の子育て支援施設や公園、魅力的な商店などを訪ね歩き、最後にランチを食べるという内容ですが、まずは妻にそのツアーに参加してもらうことから始めました。 森ノオトは、運営している本人たちはあまり気づいていないと思いますが、社会的なポジションとしては、すでに「突っ走っちゃった存在」に成長しています。地域における小さな経済圏はこれから先の日本に求められている要素で、森ノオトはそれを自然体で、四苦八苦しながらつくってきていて、それでいて軸がぶれていない。持続可能性とローカルな経済圏の創出という軸は、これからの日本社会に欠かせない要素で、大企業もその大切さに気づき始めています。森ノオトはそれを「手ざわり感」を失わずに、地に足つけてやっていて、なればこそ、今、引く手数多という状況を生み出しているのだと思います。

 

#How?

小さな団体をストレッチしていく、中庸な役割

北原: 相澤さんに理事をお願いするきっかけは、森ノオトはまさに団体として変化の局面にあり、これから企業と協働することも増えていくだろうと思われるなかで、判断軸の一つを担っていただきたい、という気持ちがありました。相澤さんは長年の友人関係においても、価値観や、大切にしているところがぶれない、それにこの人は絶対に悪いことをしないという確信があって。

NPOに限らず、組織の代表って、日々、判断と決断の連続なんですが、少しずつ組織が大きくなり、関わる人の幅が広がってくると、常に「初めての局面」がやってきて、そこに向き合っていくのにものすごい勇気と、同時に孤独を感じるんです。その答えは「経験」の中にあることが多いのですが、女性の集団だとどうしてもその経験値が乏しかったりする。そんな時に、同世代でありながら多業種との協働経験が豊富で、かつアートなどにも造詣が深い相澤さんの知見が必要でした。

 

相澤: 森ノオトでは、今、何かのプロジェクトマネージャーをやるとか、具体的に事業を動かすという立場ではなく、事務局会議に入って、組織全体をバランスしていく役割を担っていますね。事務局会議にはこの6月から参加しましたが、まさに大きなターニングポイントにありました。それは、事務局スタッフの中から、組織の意思決定のあり方を根本から変えていこうという発議がなされて、事務局の全員で考えて合議する、「フラット型」の組織にしていきたい、というもので。

 

北原: 事務局スタッフに「森ノオトは完全にトップダウン型」と言われた時にはびっくりしました。私は物事を決める時に、一人だけで決めるわけじゃなくて、少なくとも一緒にやる人には相談してバランスしていたつもりだったので。正直、ショックが大きかった(苦笑)。

 

相澤: 森ノオトの「トップダウン型からフラット型へ」の変革ですごくよいのは、トップの暴走を止めるためのネガティブな動機というよりも、これから否応なく活動や協働の範囲が拡大していくなかで、みんなで意思決定をしていこうよという、ものすごくポジティブな流れなんです。これを一歩間違うと、変な意味での全体主義に走り団体自体が潰れてしまうし、うまくドライブさせることができればガーッと伸びていける。でも、急激な伸びは森ノオトにとっては好ましくないので、そこをどうバランスしていけるかが大切です。代表にとっては、ものすごくしんどくてストレスが溜まる時期だと思うけれど、自分は、代表に寄りすぎず、でもスタッフ側につくわけでもないというポジションで、議論をかき乱さないように、必要以上に発言をせず、だけど煮詰まった時や、電池が切れた瞬間に、風をおこすというか、場を動かすように気をつけています。

今は、事務局のメンバーが、意思決定をすることがどれだけのリスクを伴い、精神を追い詰められるということが伴っているのかを共有するタイミングでもあるんです。それを、6人の事務局が全員で合議でやっていこうというのが、とてつもなく贅沢で、組織として羨ましがられるレベルの強みだと思います。

成長期にあるからこそ、団体として積み上げてきた価値を、少しずつ外に滲み出しながらストレッチさせていくことが、コミュニティの地盤を痩せさせないためにも必要な時期です。ストレッチ=急拡大ではなく、自分がつながっているいろんな企業さんのエッセンスを持ち込んで、それが小さな事業につながるといいなという、ツーステップを森ノオトに対してはイメージしています。

 

#What?

GIVE、GIVE、GIVEのアンパンマン!

北原: 相澤さんを一言で表現するならば、それこそ「アンパンマン」ですよ。

 

相澤: わっはっは(笑)。

 

北原: 常にGIVEの精神で、相手に対しては見返りを求めない。人が困っている時、助言を必要としている時には、どんなに忙しくても飛んできて、自分の頬を差し出してくるんですよ。以前はそれで大丈夫?って思っていた時期もあったけど、今ではジャムおじさんとバタコさんの強い存在感を確認しているから、大丈夫(笑)。

 

相澤: 出た! のんちゃん「ジャムおじさん」説(笑)。 いやあ、アンパンマンは深い世界ですよ。妻の実家に家族で帰る時には、だいたい自分が車を運転して、のんちゃんと妻が後ろでアンパンマンのDVDを観ているんですけど、カビルンルンが発生している時に、バタコさんが「これは湿気よ!」と話していて、湿気が出るとカビが生えてみんなの具合が悪くなる……「これはエコハウスの原理だな」とか解説すると、妻が「やめて、そういうの」って言ってきて……(止まらない)。

 

「のんちゃんがもし擁壁をのぼったり、手すりで逆上がりなどを始めたら、間違いなく次女の影響ですね。悪さを仕込んでしまいごめんなさい…」

#Why?

「編集力」が森ノオトと相澤の共通点

北原: 相澤さんの強みは「編集力」だと思います。G Innovation Hub Yokohama取材で感じたことですが、プロジェクトを生み出す時点で、ゴールははっきり見えていて、「どうやるか」の時点で集めてくる人材それぞれが何を表現するのか、その設定力に優れていて。

私は雑誌の編集経験があるので、まさに同じようなことをしていたな、と思います。編集者は、自分が表に立って何かを語るのではなく、自分が体現したい世界をすでに先行して実現している人たちを集めてきて、どういうグラビアで見せるのか、どういう特集を組むのか、登場人物それぞれの役割やボリューム感を設定して、デザイナーやカメラマンに意図を伝えて、ページを組みます。作り上げようとする世界観の中に、変な広告が1本入ったりすると、全てが台無しになることもあります。広告も含めてクオリティコントロールをするうえでも、誰とどう仕事をするのか、すごく大切ですよね。それが「編集力」だと思います。

 

相澤: そういえば「編集」はすごく意識していますね。月並みな感覚でいうと「誰とやるか」がすべての最優先なので、チームをアサインしていくことに、一番の力を注いでいます。チームづくりには相手のことを心からリスペクトできているかがすごく大事で、プロフェッショナルにはある程度お任せしながらも、主軸、背骨が必要な時にだけ口を出して、絶妙にバランスしていく、というのはありますね。

 

北原: 私自身は「編集者」として、自分はずっと裏方でいいや、と思っていたんですが、東日本大震災と福島原発の事故が大きなきっかけで、表に出ようと腹をくくりました。環境とエネルギー問題に詳しいライターで、かつローカルメディアを主宰しているという自分の特性を最大限に生かして、原発のない社会をつくろうと心に決めました。でも、「原発を止めよう」と高らかに歌うと、それだけで線を引かれたり、色付きの目で見られることもあります。原発が経済的にも環境的にも合理性がなく、負の遺産しか残さないことは誰の目からも明らかなのに、そうできない理由は、市民の関心が低いからです。それは、原発以外の環境や、貧困や格差などの社会課題にも共通するもので、特に投票率の低い私たちの世代に対して、政治とか社会への関心を高めるようなことをやっていかなければ、本当の意味での「持続可能な社会」にはつながっていかないと思います。だから、とにかく、いろんなアクションをやってきました。エコDIYとか電子エネルギー工作とか子育てツアーも、一見別のことをやっているように見えるけれども、私の中では根底でつながっています。小さな「社会参加」の選択肢をたくさん提示して、動くきっかけをつくることで、「主体形成」を増やしていこう、というのが、森ノオトを通じて私が実現していきたい世界の一つです。