仕事は、誰とやるかが最初にくる
── そもそも、SCOP TOYAMAの発端は、富山工業高校の生徒たちが「建築甲子園2017」で全国優勝を果たしたプラン「夢を描きながら住まうこと~地域を創るわかもん団地~」を実現しようとするなかで生まれました。供用廃止となっていた旧富山県職員住宅を活用するべく、公募型プロポーザルで選定された設計事務所からplan-Aが相談を受けたことから始まったと聞きます。創業支援施設の運営のイメージが共有されないまま整備が始まったことに危機感を覚えた相澤さんが、とにかく富山を訪ねていろんな人と会い、富山市、富山県という地域の解像度を高めて、どのような施設として運営していくべきかを模索していました。場のコンセプトを形にするクリエイティブを求めていた時に出会ったのが、居場さんなのですね。

居場梓(いば・あづさ):Ink&Dive/編集者・コピーライター・クリエイティブディレクター 1976年富山市生まれ。東京で雑誌編集プロダクションに在籍後、フリーの編集・ライターに。2006年に富山へUターンし、地元情報誌の編集に携わる。言葉とデザインを使った企画、ブランディング、広告制作などに取り組む。富山の日常を旅するガイドブック「スピニー」の制作や、「すしのまち とやま」のクリエイティブディレクションなど、言葉、文字、デザインの力で富山を発信している。
相澤: plan-Aが富山でSCOPに携わるにあたり、すでに大学生が作っていた「SCOP」というキーワードはあって、それを元にクリエイティブをできる人がいないか?と探していた時に、共通の知人が紹介してくれたのが、居場さんでした。居場さんは東京で雑誌媒体などの編集経験を重ねていて、富山にUターンしてからも編集やキャッチコピー領域のクリエイティブに取り組んでおり、ご自身で『スピニー』というめちゃくちゃ感度の高い富山のガイドブックもつくっていた。紹介者が「この人なら間違いない!」と激推ししていて、自分もその方を信頼しているので、一度お会いしただけで、すぐに居場さんと仕事をしよう、と決めました。
居場: 以前から、友人の貴堂幸美さん(現:plan-A TOYAMAスタッフ)から、「蓮町になんかすごい施設ができるらしい。そんな素敵なところで働けたら最高!」という話は耳にしていたんです。そしたら、その施設をつくる方とお会いすることになって。相澤さんはその後、急いで飛行機に乗って帰らなければいけないというのに、無理矢理貴堂さんのところへ連れて行って紹介して、そのまま空港まで相澤さんをお送りしたんですよね(笑)。
相澤: もう、その時点で、居場さんで決まり(笑)。実はお会いした時点で、自分は居場さんの業務領域を細かく把握していたわけではなかったんですが、自分のことは一旦横に置いておいてもこの人のために、と利他的な行動ができる人だということがすぐにわかりました。plan-Aの仕事では、何かものごとをつくる時に、成果物そのものではなく、ディスカッションの過程こそが命で、そのプロセスに違和感がなければ正しい方向性で落ち着く、というのが経験上わかっています。SCOPの場合は、かつて高校生がワークショップで作っていた「SCOP」という名前は決まっていて、公募型プロポーザルによって設計が進み、とりあえず「箱」はできる状態。でもそこに魂を入れなければならない。居場さんという「人」ならば、その役割をお願いできると、一目でわかったんです。
居場: 私は型に嵌められることがすごく苦手なのですが、plan-Aの皆さんとのブレーンストーミングはとても楽しく的確で、うまく誘導していただきながら自由に発想できたのがすごくよかったです。
私自身、高校卒業後に一度富山を出て、広い東京でファッションや音楽、カルチャー分野での雑誌編集の仕事を謳歌して、2006年に富山にUターンしました。ただ、久しぶりの故郷はすぐに馴染める環境だったかというと、そうでもなく…。富山で新しい仕事をする際にどこか身構える面があったんです。でも、相澤さんはいい意味で、構えなくていい相手でした。きちんと仕事をされている方ではあるんですが、いつも間口を大きく広げて、一度ちゃんと全てを吸収してくれて、歩幅や波長を私にしっかり合わせてくださる方でした。そうして、ブレストを何度か重ねていくなかで、「いきかた しあわせ ほりおこせ!」というキャッチコピーができあがったのです。
言葉とは、最後に立ち帰れる場所
居場: 相澤さんやplan-Aの方々が、富山県を足で回って人に会い、本当に緻密に分析して、創業支援という新たな物事のタネからここまで花咲かせることができたのは、本当にすごいことだと思います。2022年のSCOP開設前の時点で、建物のコンセプトや設計も緻密に考えられていたのには大変驚きました。各分野のプロフェッショナルが集まっていないと、今SCOP TOYAMAで起きていることは絶対に実現できないと思います。プロポーザルでお仕事をとられたと聞いていますが、それには相当な時間と知識と労力をかけられているのがわかりますし、富山県というよりも他県であっても、このような仕事ができるplan-Aという集団は稀有な存在だと言えますね。
相澤: 富山県の働く環境としては、製造業が集積しているので、現状で一定以上には満たされていると言えます。しかし、もしその製造業が倒れたら?
日本各地の地方都市で起こっている状況を見ると、一気にゲームチェンジが起こり、ではその時に働いている人はどうするのか? という深刻な課題が迫ってきています。なので、富山ではガッツリ一から起業ということに限らず、本業を辞めなくても、自分の人生の可能性を拡張していくという意味で、「創業」という選択肢を示したかった。しかし、それがなかなか富山県の人たちには見えにくい、伝わりにくいものでした。だからこそ、この「ほりおこせ!」という言葉が響くんですよね。だって、見えないものを掘り起こすのだから。そう周りにも理解してもらったところで、言葉に魂が入ったと言えます。
── コアメンバーによって生み出されたこの言葉が魂となって、SCOP TOYAMAに巡っていくことで、おそらく外野的に見ていた周囲を説得できる意味を持つことができたのでしょうね。
居場: SCOPでは、言葉がすごく機能しているように感じています。特に立ち上げ期って、外側から何か言われてぶれそうになったり、引っ張られそうになったりもしますよね。でも、言葉があれば「いや、私たちが立ち帰る場所はここだよ」と戻れる場所になるんです。だからこそ、熱量と愛情を持って一緒に言葉をつくり上げていくプロセスにはすごく意味があったし、そのことに安心できています。建物一つひとつの定義も言葉にしていくなかで、誰がどう活用していくのか、一言で表せるようにしたかった。今、それが機能しているのを実感できて、よかったなと思っています。
── 居場さんは雑誌などの編集を長くやってこられて、コロナを機にコピーライター、クリエイティブディレクションとして才能を花咲かせていくわけですが、居場さんのコピーには、東京や富山で見聞きしてきた編集者としての経験が生きてきていると感じます。コピーってゼロから生まれてくるものではなく、相手との対話やさまざまな経験・体験を重ねて、物事が生まれてくる本質をつかんで、そこから磨き上げていくものなのではないかと、居場さんのお仕事を見ていて思います。
居場: まさにそうですね。相手が何かを見つけたいなと思っていることを、対話の中から見つけていって、「こういうことですよね?」と抜き取った言葉を整えたものが、私にとってのコピーなのかもしれません。決して難しい言葉やカッコいい言葉を作り出すということではなくて、相手との対話からつくり上げていく。
相澤: だからこそ、SCOPの言葉には実感値があるのだと思います。
戦略的ながら、ゆるやかさを持つジャーナル
── 2023年から年に4回発行しているタブロイド版の「SCOP JOURNAL(スコップジャーナル)」も居場さんが手掛けられているのですよね。入居者紹介や店舗紹介、創業・移住促進住宅への潜入取材や移住者インタビューなど、クリエイティブも素敵で、とてもわかりやすいです。
相澤: スコップジャーナルは実はとても戦略的に作っています。我々は委託事業者として綿密な報告書を毎年作っていますが、それを正しく読んで評価することは難しいんですよね。業務上は提出しなければならないものですが、SCOPのやっていることの細かい内容までは理解できなくても、どんなことをやっているのか概略的につかめる、そうした紙媒体を作る必要があると考えていました。なので、発行部数は少ないですし、でもクリエイティブがいいので毎号なくなってしまうほど評判がいいです。
居場: 実際、富山の人は、誰が何のためにこの創業支援施設をつくったのか、正しく理解している人はまだ少ないのではないかと思います。だから、施設のことを楽しく、わかりやすく伝えられる媒体としてジャーナルをつくらせてもらっているんです。自由度高くつくれる環境をplan-Aさんに整えていただいているのはとてもありがたく、私も楽しみながらジャーナルを制作しています。
相澤: 2023年にplan-Aのオリジナル企画として、SCOP TOYAMAの創業支援プロジェクト「BizHike(ビズハイク)」をスタートしました。plan-Aの田中優子が運営するこのプログラムは「創業をこころざし、実践する人たちが、その道を“ひとりにならず、みんなで歩む”ことができる環境を提供する」として誕生しています。創業相談やイベント・勉強会やワークショップへの参加、実際に創業した人に話を聞く連載企画「創業ライブラリー」からなり、創業を考える人がいつでも参加できる仕組みです。ビズハイクの特集も、居場さんに担当してもらいました。
居場: ビズハイクのプログラムも、まさに、他ではできないものですね。これは特集号をつくったからこそ言えます。創業支援を考えるまでもない層から、本気でお金を稼ぎたい人までまるっと網羅できて、いろいろな分野に関して相談できたり、ワークショップも一つひとつていねいに考え尽くされていて、お金の相談もできる、まるで専門学校のようなプログラム。それでいて、スタートはいつでもいいという柔軟性もあり、すごく深みがあるなと思いました。
── その気になれば創業もできる人を増やし、創業後も継続して事業の歩みを止めない人を増やす、というビズハイクのコンセプトは、最初に相澤さんが富山をリサーチした時に感じた「いつゲームチェンジが起きてもおかしくない時代に、創業という可能性を示し続けていく」ことに通じますね。
愛と情熱を持って、富山のために正しく怒る
── さて、plan-Aは2024年度を持ってSCOP TOYAMAの運営から撤退することが決まりました。この経験をどう次につないでいくのでしょうか。
相澤: SCOP TOYAMAの設立や運営にあたり、富山県のことを徹底的に調査しました。人口動態や企業集積の実態、税収、モビリティ環境といった定量的なデータを冷静に俯瞰して見た時に、我らなりの仮説と課題が立ち上がっていきました。一方で、それこそ食、水、空気、人との会話に至るまで、めちゃくちゃ富山に熱量を持って関わり、人との出会いから定性的なエピソードを積み重ねることで、根拠を持って仮説を判断できることになります。plan-Aがチームになったことで、私一人でやっていた時よりも爆発的にできることが増えていった。これは大企業だからといってできるわけではなく、我らなればこその熱量、行動量をかけていたからだと思っています。
居場: 与えられた課題が大きいからこそ、その解決に向かって求められているもの以上の最適解を求めて真剣に立ち回る人の努力や熱量は、生半可には測れないです。だからこそ相澤さんのような存在は稀有だし、この時代に合っていない熱血漢ですよね(笑)。
私は、plan-Aや相澤さんに出会えたことは、人生のいい起点となり、とても刺激的でした。plan-Aが富山を去って物理的に距離が生まれることに寂しさはありますが、今の時代のいいところは、どこにいても一緒に仕事をしようと思えばできるし、相澤さんたちは行くべき道を突き進んでいらっしゃるんだと思っていますから(笑)。
相澤さんを一言で表すなら? 「愛と情熱の人」でしかないですね。今の時代、それを出すこと自体が否定されるような世の中で、全力で愛と情熱で生きている姿を隣で見ていて、私自身もそう、誰に何と言われようが、カッコつけずに、そうありたいですね。
インタビュー・文=北原まどか
写真=廣川文花