伴走しながら共創していくパートナーとして。〈セルディビジョンインタビュー前編〉

セルディビジョン
服部大吾さん(取締役、ブランドクリエイター)
木部輝昌さん(マネージャー、ブランドクリエイター)

セルディビジョンとplan-Aの付き合いは、長い。2011年、リストガーデンの印半纏から始まり、ビーチサンダルといった異色なノベルティデザインから、ブランドのロゴ制作、組織のリブランディングまで、幅広く事業をともにするパートナーでもある。前編では、相澤と、取締役の服部大吾さん、マネージャーの木部輝昌さんが、リスト時代の仕事とセルディビジョンの基本姿勢について語り合った。

#When?/Where?

「人推し」がセルの魅力

相澤: 私が人とのお仕事を始める時は、どこかで出会っていたり、紹介だったりすることがほとんどで、その唯一例外とも言えるのがセルディビジョンなんです。2011年当時私は、リストグループの新築戸建て住宅事業部「リストガーデン」のブランディングを担当していて、リスト社員の為の礼服として「印半纏」をつくろうと考えていました。すでに、半纏そのものの制作と、型染めをする事業者さんは決めていたのですが、デザインをどこにお願いするかと考えていて、やるならば「横浜のデザイン会社」だと思って、検索で調べて直感的に相性がよさそうだと思ったのが、セルディビジョンだったんです。

 

リスト印半纏

 

服部: 相澤さんからのお問い合わせの対応をしたのは僕だったのですが、その後すぐに会いに来てくださって。とにかく熱量が高いんだけど、何言っているのか、最初はよくわからなくて(笑)。

 

木部: 「なぜ印半纏をつくりたいのか、どういうものにしたいのか」について、みんなで話して、ホワイトボードが真っ黒になるくらいに書き込んで。僕は当時、「(お祭りで着る)法被ですか?」という感覚だったのですが、「法被と印半纏は違う!」とまた熱く語って、印半纏とは何かという本を渡されて勉強して……(笑)。咀嚼しつつ、つくった感じです。

 

セルディビジョン:服部大吾さん(取締役、ブランドクリエイター)

セルディビジョン:木部輝昌さん(マネージャー、ブランドクリエイター)

 

相澤: 当時のリストグループは、不動産業界における新興勢力的として横浜界隈では有名で、何か斬新なことを仕掛けてきそうなイメージを持たれていました。その中において住宅部門がすごく質実剛健な部署であるということが、意外と知られていなくて、それがもったいないなと思っていたんです。実直さや真面目さは住宅づくりではとても重要なことなので、それを前面に押し出していこうという時に、印半纏が機運を高めるモチーフになるなと。大工や職人の世界での印半纏は、一定の職位、凄腕の人しか着られないものです。礼服としてのリストの印半纏をつくって、それを代々受け継いでいくような社風をつくっていこうと。そのために、量産せずに、染め抜くような印半纏をつくろうとしたんです。

 

木部: 「着る」ということはすなわち、役目を背負うということでもあり、印半纏の役割や、着る意義、思いといった、形になっていないものをデザインし、「リストだからこの模様」というコンセプトをうまくつなげることができたのかな、と思います。

 

リスト印半纏

 

──その後、リストガーデンのブランドロゴを9パターン、セルディビジョンに担ってもらうことになったんですよね。

相澤: セルディビジョンと印半纏をつくっていく経緯のなかで、家づくりと、印半纏で何を表現するのかというストーリー、筋の立て方の一連の流れに違和感がなかったんです。ブランドそのものの理解の仕方は人によって違うけれど、理解のされ方がスムーズで、それがデザインに反映されていく様を見て、「セルは、ロゴを一発作ってそれだけで浸透させる大企業的なやり方ではなく、コミュニケーションをしながら一緒につくることができるパートナーだ」と、はっきりわかりました。つくる時にストレスがない仕事は、やりやすい。そして、リストガーデンのリブランディングのロゴデザインも、セルと一緒にやろう、となりました。

 

服部: 木部と二人で、休日に現地に車で行ったんですよね。当時、すごく忙しくて、「現地は写真の確認でいいですか?」と相澤さんにお伝えしたら、相澤さんが激怒して、「ロゴ作るのに現場見ないのはありえない!」って。

今になってリストの偉大さがわかるんですが、当時はリストというより、相澤さんというクライアントと付き合っていた感覚です。実質的に、リストのクリエイティブディレクターでしたからね。

 

 

相澤: セルディビジョンも今では「ブランディング」の会社として浸透していますが、私の考えるブランディング、リブランディングは、その会社の事業戦略をつくっていくこととほぼイコールなので、その事業部の未来を作っている、という感覚です。その力が強くなれば、企業やグループ全体に波及するだろうというイメージがあったので、おこがましくいうと、企業の未来をイメージしながら、その事業の未来を作っている感覚が強かったです。

リストガーデンのリブランディングについては、真面目さ、誠実さ、実直さを前面に出しつつ、結局は人の営みをする箱(住まい)をつくっているので、その温度感が伝わるものでなければならないだろう、というのが根底にあります。もちろん、地域工務店などはそういう姿勢のところが多いのですが、リストのように大規模開発型のデベロッパーとして何ができるのかというと、例えばゼロエネルギーハウスのようなものが早く売れることが、業界全体に対して影響を及ぼしていくだろう、リストのあのやり方だったら売れる!と他社が真似していくような流れをつくることで、業界を変えることになると信じていました。会社の利益だけ考えると手元のことになりますが、結果論として、リストガーデンが業界のオピニオンリーダー的な存在になれるよう、先進的な取り組みを仕掛けていました。

 

木部: 相澤さんに声をかけられる時って、だいたいそういう感じで。つくるツールについて、最初は「え?印半纏?」って思うけれど、話を聞いていくと、「未来を構想する」ということになるんです。

 

 

#What?

クライアントに「並走」して「共創」する姿勢

──その後、藤沢市の戸建て開発で、ビーチサンダルをつくりましたね。

 

リスト ビーチサンダル

 

木部: 住宅展示場で来場者に配るノベルティをつくる、ということで、湘南をイメージさせるアイテムとして、ビーチサンダルのデザインを手がけました。

相澤さんに言われたことで今でも覚えているのが、「ノベルティって使われないと意味がない」ということ。いわゆるロゴがバーンとのった企業色ばっちりのノベルティじゃなく、普段使いでもできるものにしたい、ということはすごく大切にしていましたし、今でも意識していることです。

 

相澤: ビーチサンダルは、葉山町に本社がある「ビーチサンダルのげんべい商店」に依頼しました。藤沢の物件は、そこに入居する方々が、開発以降も近隣住民の方と良好な関係をいかに築いていくのかを重視していて、湘南プライドを持っている藤沢の方に喜んでいただけるようなものをプレゼントしよう、という裏目的があったんですよね。

 

木部: 家の形をした「GO HOME」と、海と風をイメージした「GO BEACH」というアイデアがデザイナーから出てきたんです。それが本当に好評で、即、なくなってしまったということで。

 

── 「印半纏」や「ビーチサンダル」というアイテムを見ると、一見、斜め上からのアイデアに見えるんですが、実はそこに本質的な、企業の魂みたいなところをつくることをやっているんですね。

 

 

相澤: 続いて服部さんに担当してもらったヒルトップマンションのリノベーションは、リストのゴーストハウスになっていた2物件をリノベーションして稼働率をあげるというのが表向きの理由ですが、裏目的として、新築デベロッパーというリストに、リノベーションというDNAを刷り込む、一発目のプロジェクトでもありました。

建築設計を担っていたのは、Y-GSAの針谷將史さんで、めちゃくちゃカッコいいデザインだったのですが、あのお化け屋敷のような外観を変えたくなくて。古めかしい感じを、なんとなくほっこりあったかく、逆に感じさせるには、どうしたらいいのかと考え、セルディビジョンにサイン計画を依頼しました。

 

ヒルトップマンション

ヒルトップマンション サインイメージ。 PHOTO:ketnta hasegawa

 

服部: 当時、住宅のサイン計画は初めてで、しかもそれを全部手書きにしたのも初めてでした(笑)。「ジブリの映画に出てくるようなひっそり感を出したサインをつくりたい」というのがテーマでしたね。

いわゆる、カッティングシートのようなパキッとしたデザインをそこにはめていくと、相澤さんが「トトロの家のような」とおっしゃった雰囲気は出ないだろうなあ、と思って、採用したのが「機械彫刻用標準書体」というフォントだったんです。昔のエレベーターに見る書体で、たまたま何かで発見して、これだ!と思った。機械が掘るフォントを手書きする感覚がおもしろいなと思って。そしたら、あったかい、ほっこりした感じが、あそこに定着するんじゃないかと、最後のアレンジとして、ライティングだけさせてくれとお願いして、3日間通い詰めたんです。

 

相澤: セル、これもできるんだな(笑)って思った。

 

木部: たまにあるよね、ここまでやっちゃう?みたいな。

 

ヒルトップマンション サイン

サインを自ら書いていく服部さんと小牧さん。小牧さんは後編のインタビューで登場します。

 

 

相澤:

リストのゴーストハウスだった物件に社員が住んで、満室になったというのが大きいですね。その後、本丸でもある本社の会議室のリノベーションを施工会社のルーヴィスと半分セルフでやって、本拠地の一室が、社員からするとたむろできる自由な場所になったんです。卓球、昼寝、昼飯、集って雑談する場が生まれて、それが社員にいい影響を及ぼしているのを確認して、本社1階のリノベーションに着手したました。ホテルのラウンジのような本社は、皆さんご存知だと思いますが、横浜・関内エリアを象徴するコミュニケーションスペースになりましたよね。

リストにリノベーションのDNAを埋め込むという目論見においては、少なくとも現在においては、リノベーションの事業部が各部署で立ち上がっていることが結果として証明しているし、社内でリノベーションすると言う言葉にハレーションが起きなくなったことは成果としてあり得ると思います。

 

 

──会社のDNAを再構築する、というプロジェクトを、デザイン会社とやる意味については、どう考えていますか?

 

 

相澤: ヒルトップマンションができたのが2017年で、セルディビジョンはそのころはもうすでに、パートナーというか、戦友というか、そういう存在でしたね。

私が手がけるプロジェクトを通して、セルディビジョンも、もう一つ違うステージに上がれる何かのヒントを得られるものがあることが大事だと思って、一案件ごとにそういう要素を付加できるようにしたつもりです。セルと一緒に仕事する時は、「よくわからないけどできる?」みたいな問いかけをしていましたね。

 

木部: 相澤さんから声がかかると、ドキッというのと、ワクワク半分で、複雑です(笑)。

 

服部: 相澤さんからの電話は、心の中のパトランプ(笑)。今度は何がくるんだろうと。やっぱり、ワクワクしますね。新しい景色を見させてもらう感覚です。

 

 

相澤: セルディビジョンは、常に期待を上回った提案をしてくれて、そのたびに感動します。その期待の上回り方が、絶妙なバランス感覚でやってきます。それはまさに、時代の1歩先でもない、0.5歩でもない、0.75歩という絶妙なかゆいところをついてくる感じで。デザインが主張しすぎて暴走すると、受け取り手が理解するまでに直感的に時間がかかってしまい、これはデザインとして敗北だと思います。セルの仕事は、そのバランス感覚が、いつも心地よいんです。

 

木部: セルディビジョンはブランディングをやっているけれど、コンサル会社ではなく、これが正解ですよ、こうしたらいいですよ、という上から言うことはしていません。お客さんと何か一緒につくっていったり、0.75歩くらいの、ちょっと超えたところで、こうすると相澤さんやお客さんがワクワクするんじゃないか、見た人に意欲を持ってもらえるんじゃないか。それはテクニックで狙っている感覚はなくて。今こういうデザインが流行しているんで、という提案はしない。ちょっと付加価値をつける。ちょっとだけ、超えすぎず、見返すというのが、そういう感じですね。

 

服部: 言うなれば、並走する感覚です。引っ張る感覚はない。セルディビジョンの基本ベースは並走なので。

セルディビジョンの主な顧客は、中小企業の経営者です。お客様の方がよほど会社や業界の人を知っているのは当然で、そのクライアントが実現しようとしていることに対して、ぼくらがお手伝いする。それが0.5歩や0.75歩という感覚かもしれません。僕たちなりのアレンジはするが、ベースはクライアントにある、ということですね。

 

木部: なるべく「共創」したいですね。

 

 

── セルディビジョンの仕事として、デザインだけでなく、コンサルティング、リブランディングの要素が強く、それはplan-Aと重なる部分がありますね。

 

相澤: セルは、ブランディング×デザインという、もう一つコンサルの脳味噌を持っています。俺たちについてこいというよりは、顧客に寄り添う、義理人情系。それが他のデザイン会社では見受けられないセルの強みです。デザインって絶対的にクライアントの営みや温度感を読み込んで、そこにシンクロしないと生み出せないでしょう? それを生み出せない人は信用できない、というのが私の心情です。その人たちが自分の動きとシンクロできるとは思えない、そこに「人間味」が必要だと思っています。

 

 

── インタビュー後編は近日公開予定です!