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2024.04.25
活動報告

【YOXOFES|前編】関内エリアのイノベーションと創造性がとけあった「YOXOFES in さくら通りOPEN!」

 

関内×スタートアップのキーワード

 

「YOXO(よくぞ)」という言葉を見たことがありますか? 2019年に横浜市が宣言した「イノベーション都市・横浜」を象徴する“ステートメント”です。

横浜市の経済局では、研究者・技術者、起業家、学生などの人材が、組織を超えてネットワークを広げ、新たなイノベーションを横浜から生み出していくことをミッションとし、さまざまな取り組みを行ってきました。

YOXOの推進に向け2020年にオープンしたのが、関内駅から徒歩3分、横浜公園のすぐとなりという好立地にある「YOXOBOX」です。スタートアップの支援プログラムや、専門家による相談窓口、ビジネスイベント等の実施に取り組んでいます。plan-AはここYOXOBOXの運営に、三菱地所株式会社をはじめとした共同企業体の一員として携わってきました。

 


※YOXOBOXの外観。plan-Aは共同企業体の一員として運営に携わる

 

YOXOBOXで開催されたイベントのなかでも、いまにつながる結節点となっているのが「みらい創造マラソン(以下、みらソン)」だとplan-A代表の相澤毅さんはふりかえります。

「ミラソンはこれまで2023年に2回開催していますが、前回のVol.0.5は登壇者以外に20人ほどの参加者が集まり、ワークショップ形式で行いました。そこで繰り広げられた対話の熱量がすごかった。このときは関内を中心とした地域の定量的な診断データをもとに、地域の可能性や課題を探り、スタートアップ企業が関内の魅力を引き上げられるかという観点で、議論しました。参加者たちからふせんに書かれた無数の課題が挙げられましたが、それに対してオンデザインパートナーズの西田司さんや、argの岡本真さんら関内エリアのキーパーソンがどんどんフィードバックをしていって――。そのときに出た結論が、関内×スタートアップにおいて街として優先させるべきは【子育て】【交流・コミュニティ】【世代交代】の3要素になるのでは、ということでした」

 


※みらい創造マラソンVol.0.5の告知バナー

 

“イノベーション都市”と“クリエイティブシティ”が共存する仕掛け

 

このようにplan-Aには、関内エリアにおけるスタートアップのキーワードを、丁寧に掘り起こしてきた実感がありました。そしてこの思いは、2024年2月3日・4日の2日間をとおして開催された「YOXO FESTIVAL」(主催:横浜未来機構)に連動した、YOXOBOXでの「未来の子育て支援」シンポジウムの開催につながります(plan-Aが主催した『「未来の子育て支援」シンポジウム』については、レポート後編をご覧ください)。

一方plan-Aは、主に関内・関外地区における遊休不動産(不動産ストック)を、創造的に活用することを目的とした「芸術不動産事業」にも携わっています(2022年に横浜市[1]と横浜市芸術文化振興財団とともに連携協定を締結)。アーティストやクリエイターが集まることで、都市の内発性を高める“クリエイティブシティ”の推進にも、plan-Aはこういった取り組みをとおして携わってきました。ですが相澤さんは、創造都市推進課による“クリエイティブシティ”と、経済局による“イノベーション都市”が、「関内」というひとつのエリアにそれぞれがある状態で、お互いが有機的に連動することがこれまでは難しかったのではないかと指摘します。

「同じエリアで推進しているそれぞれの方向性が、別々にあるという感じがありました。plan-Aが一貫してこだわってきたこと、それは関内という“エリア”の魅力を最大限に生かしていくことです。そういった視点から見ると、この状況をなんとかしたいという思いもありました」

そんなplan-Aが、YOXO FESTIVALに連動して仕掛けたのが、「YOXOFES in さくら通りOPEN!」でした。これまでも桜通りでは、季節のイベントや食・文化のイベントの際に通りを歩行者天国にして、関内桜通り振興会が近隣にオフィスやアトリエを構えるクリエイターやアーティストとともに「さくら通りOPEN!」を開いてきました。

「未来の子育て支援シンポジウム」の開催と同日となる2月3日に、会場のYOXOBOXと歩いて3分ほどで行き来できるこの道で、創造都市の文脈とつながるこのプログラムを行うことに意味がある――。plan-Aの働きかけによって、クリエイターやアーティスト、そしてシンポジウムに登壇したスタートアップ企業、さらには地元のスポーツ球団も関わる「YOXOFES in さくら通りOPEN!」が開かれることになったのです。

「未来の子育て支援シンポジウム」の会場づくりにも、この動きに呼応した一面がありました。子育てをテーマにした対話の場に来てほしいのは、親子連れの参加者です。子どもが飽きずに会場にいられるための工夫として、アーティストの清水一忠さんが、木のレールにボールを転がして遊べる「タマコロガシ」で子どもの居場所をプロデュース。会場にはたくさんの親子連れと、楽しそうに遊ぶ子どもたちの姿が見られました。

[1] 当時の横浜市は文化観光局創造都市推進課、現在はにぎわいスポーツ文化局文化芸術創造都市推進部創造都市推進課

 


※木のレールは、子どもたちがいろんな使い方ができるように組み立てられている。「自由に遊び方を考えてほしい」と清水さん

 

クリエイターが集積する関内桜通りの世代交代

 

「さくら通りOPEN!」のキーパーソンは、桜通り沿いの泰生ビルで保育園を運営するピクニックルーム代表の後藤清子さんです。文化事業から転身し、保育事業者として2016年にピクニックナーサリーを開園した際、この地域にある団体すべてに関わろうと考えたという後藤さん。関内桜通り振興会では、長年事務局を務め、「さくら通りOPEN!」の開催に尽力してきました。

そんな「さくら通りOPEN!」の事務局も世代交代が進み、近年は、同じく泰生ビルにオフィスを構えるオンデザインパートナーズの若手スタッフが中心となり運営していると後藤さんは話します。「世代交代」というキーワードは、前述のみらソンで語られた要素のひとつでもありました。

「これまではわたしたちの世代がこういったイベントごとも先導してきたのですが、代替わりが進んだなぁという実感がありますね。頼もしいです」

背景には、2022年に建築設計事務所のオンデザインパートナーズが、桜通りに面した一階に「オンデザインイッカイ」と称するガラス張りの新たなオフィスを、セルフリノベーションでオープンしたことがあります。代表の西田司さんは同年、横浜文化賞も受賞。これまでの活動への評価と、街ににぎわいを生む新たな場をオープンした相乗効果で、関内エリアのまちづくりへのコミットも一段と深くなりました。「YOXOFES in さくら通りOPEN!」では、オンデザインパートナーズも展示や上映プログラムで参加しました。

 


※オンデザインイッカイの展示。関内桜通りで、同社が手掛けてきたイベントのビジュアルが並ぶ

 

泰生ビルは、不動産オーナーの株式会社泰有社が、芸術不動産事業を活用し、アーティストやクリエイターを多く誘致した関内エリアのホットスポットのひとつです。オンデザインパートナーズのような建築設計事務所や、ピクニックルームのようなスタートアップ企業が多く集積しています。

この日、オンデザインイッカイでは「創造都市と桜通りよもやま話」と題し、横浜市芸術文化振興財団の杉崎栄介さん、横浜コミュニティデザイン・ラボの杉浦裕樹さん、そして後藤さんの3者によるトークセッションも行われました。横浜では2004年ごろから「創造都市」という言葉が出てきたとふりかえる杉崎さん。関内を舞台に行政と民間が互いに支えあいながら、集積した人材の点が線になり、面になっていくような“クリエイティブネイバーフッド”を形成してきたと話します。それからちょうど20年が経ったいま、創造性の担い手たちが複層的につながりはじめている感覚があるという、このエリアの仕掛け人たちの言葉が印象に残ったトークセッションになりました。

 


※左から、横浜市芸術文化振興財団の杉崎栄介さん、横浜コミュニティデザイン・ラボの杉浦裕樹さん、ピクニックルームの後藤清子さん。

 

「YOXOFES in さくら通りOPEN!」では、クリエイターとYOXOのスタートアップ企業が協働

 

2024年2月3日の11時~16時まで開催した「YOXOFES in さくら通りOPEN!」は、スタートアップ企業による「キックバイクで運動能力測定」や、プロバスケットチームによる「バスケットシュート体験」をはじめ、からこそBOXによるカフェやVegies Parkといった飲食系のお店などでにぎわいを見せました。
YOXOBOXで開催された2組のシンポジウム登壇者も、さくら通りOPEN!に関わっていたこともあり、シンポジウムを聞き終わった人たちが連れ立って桜通りへと足を運ぶ姿がありました。ここからは、それぞれの団体の取り組みを紹介していきましょう。

 


※YOXOBOXの子どもの居場所をプロデュースしたアーティスト、清水さんがつくった「タマコロガシ」のキットも設置された。以前、関内桜通り振興会が購入し、イベントなどで組み立てて使っているという

 

●オールコンパス株式会社

2021年に創業したオールコンパスは、シンポジウムにも登壇したスタートアップ企業です。大人も子どももスポーツを続けることができる社会の実現を目指し、スポーツを継続するためにS.Sクルーと呼ばれるスタッフがオンライン上でそっとユーザーと伴走するアテンダントサービス「アシレック・スポーツ」を運営しています。たとえば近年、人気が高まっているスケボーは競技人口が増えていますが、それでもなかなか始めることができない方々もいらっしゃるようで、そういった方がスムーズに始めて続けていただけるような環境を作られているそうです。

この日は桜通りで、親子向けに自転車とキックバイクの体験コーナーをひらきました。3歳の子どもから80代まで、じつに幅広い年齢層の人たちが自転車やキックバイクを楽しむ姿がありました。オールコンパス代表・松岡直紀さんは「これはスポーツのショーケースという位置づけです」と話します。

「いまの時代、皆さん忙しく、スポーツをしたいけど時間がない、続かないという声が聞かれます。ですが弊社が早稲田大学とともに行っている共同研究では、1日に10分でも15分でも運動をすることで、精神疾患や他の疾病に対しても効果があるということの実証実験をしている最中です。楽しみながらスポーツをすることは、わたしたちの生活のウェルネスに確実につながります。

今日のようなショーケースをやってみると、都市で生活をしている人は自転車に乗る経験そのものが少なくなっているのを実感します。こういった場をきっかけに、スポーツの楽しさをすこしでも感じてもらえたら」

 


※リピートしてブースに足を運ぶ子どもたちの姿も多く見られた。桜通りのなかでも人気のコーナーに

 

●横浜エクセレンス

2021年に東京都板橋区から横浜市へと本拠地を移転した、プロバスケットボールクラブの横浜エクセレンス。中区にある横浜武道館を拠点に、B3リーグで活動しています。
この日はplan-Aからの声がけをきっかけに、シュート体験コーナーを設置したそうです。これまでも横浜エクセレンスは、馬車道通りなどでもシュート体験のイベントを行ってきました。事業本部の杉山優さんに、関内桜通りの印象を聞きました。

「近くにインターナショナルスクールがあるからか、外国籍の方もいらっしゃいましたね。馬車道通りはどちらかというと観光客のかたが多い印象をもちましたが、関内桜通りはこのあたりにお住まいのご家族がたくさん訪れてくれたように感じます。
わたしたちは横浜市をホームタウンに活動するチームなので、地域に出向き、地域を盛り上げていきたいという気持ちがあります。こういったシュート体験をきっかけに、遊び感覚でバスケットボールを楽しんでもらって、興味をもっていただけたらうれしいですね。
エクセレンスは、コーチが学校に出張授業をしに行くこともありますし、チアダンスアカデミーも人気で、関内馬車道スタジオでも開催しています。地元の子どもたちのコミュニティとしても、知っていただく機会になればと思っています」

 


※子どもも、シュートに挑戦! バスケの楽しさを伝えます

 

●Veggies Parkと一般社団法人からこそBOX

シンポジウムに登壇したスタートアップ企業のひとつ株式会社カマンは、リユース可能な容器「Megloo(メグルー)」を広める活動をしています。コロナ禍でテイクアウトによる容器のゴミが多く出る問題をきっかけに、洗いやすく返却できるリユース容器を開発、流通させることに成功しました。

この日、桜通り沿いにある泰生ポーチの1階で、「Megloo」を使ってお弁当を販売したのが、Veggies Park(あげる株式会社)です。「野菜の遊園地」をコンセプトに、環境と体に優しいプラントベースフードを提供するVeggies Park。メニューは元町の薬膳中華料理「食明記」の監修による、スペシャルな薬膳弁当でした。「さくら通りOPEN!」の来場者たちも、ここでしか味わえないお弁当をおいしくいただきました。

 

※あげる株式会社「Vegies Park」の薬膳中華弁当×株式会社カマンのリユース容器「Megloo」

 

そして「一般社団法人からこそBOX」は、「Megloo」のカップも用いてコーヒーを提供しました。代表の瀧脇信さんは、泰生ポーチ1階で毎週水曜日の朝、コーヒー屋をオープンする朝café「この前の続き」[2]のメンバーでもあります。Meglooのカップは朝café「この前の続き」、でも使用してきたそうです。

「今日のように、エクセレンスさんの横でカフェをやっていると、スポーツをとおした親子の会話も聞こえてきます。コーヒーを飲みながらお母さんたちが愚痴をこぼす場面もあって、この屋台カフェが道行く人たちのちょっとした息抜きの場になれていたらうれしいですね。YOXOFES inさくら通りOPEN!をとおして、人と地域がつながる瞬間に立ち会えたような気がしています」

[2] 朝café「この前の続き」は2024年2月をもって終了

 


※からこそBOXの屋台カフェでコーヒーを飲みながらくつろぐ人たち

 

1年でもっとも寒いはずの2月の路上でありながら、穏やかな日差しのなかで、関内エリアのイノベーションと創造性がとけあうような時間が流れた「YOXOFES in さくら通りOPEN!」。plan-Aが見据える、関内エリアのクリエイティブとイノベーションが有機的に結びつく未来のかたち、その輪郭が表れはじめたような1日でした。

 

取材・文:及位友美(voids)
写真:堀篭宏幸