plan-A plan-A

「1」を「3」にしてくれる、僕の「頭脳」

川岸憲一さん(桃山建設株式会社 専務取締役)

川岸憲一さんは、創業67年の老舗工務店の3代目。自宅がある横浜市青葉区では昔住んでいた生家をコミュニティスペース「BADAI BASE」として地域に開いたり、同地域の工務店4社で一般社団法人を結成するなど地域活動の主要な担い手の一人だ。plan-Aがプロデュースした桃山建設の「THE GUILD IKONOBE NOISE(ザ・ギルド イコノベノイズ)」(2020年12月竣工)は、plan-Aによって2021年10月にはグッドデザイン賞を受賞するに至った。

リブランディングで社内のベクトルを同一方向へ

── THE GUILDは、もともと桃山建設の「木材加工場・倉庫」に「共同住宅」+「店舗」を併設したユニークな物件でした。THE GUILDのリノベーションに本格的に着手したのは2020年の春以降ですが、それに先立ちplan-Aでは桃山建設の全社のリブランディングを提案、1年半ほどかけ実施した上でTHE GUILDのプロジェクトをスタートしました。

 

 

川岸: 相澤さんとの出会いは、2014年、まだリストにいた時代でしたね。ここ(THE GUILD)のことはまだ僕もノープランだったんですが、2019年の初頭に「ちょっとこんなことをしたいと思っている」と相澤さんに話したら、相澤さんがアポ無しでいきなり現地に来て、「面白そうですね」と。
最初、相澤さんって何をしてくれる人かよくわからなかったんですが、Open Aの馬場さんやいろいろな人をどんどん連れてきて、チームをつくってくれました。
僕は今まで社内でBADAI BASEやロゴマークづくりなどを一人でやってしまってきました。でも今回はそうでなく、相澤さんからのアイデアで、まず幹部も一緒に会社の理念や方針を見直し、その中で今後の桃山建設におけるTHE GUILDの役割を位置付けました。そこで会社の人たちのマインドを底上げしてもらえたというのは大きいと思います。

 

 

 

住む、つくる、働くを融合させた場が走り出す

──THE GUILDのプロジェクトチームというのは、国内のエリアリノベーションを先駆的に手がけてきた馬場正尊さんが率いるOpen Aが空間デザインを担当、VIデザインは相澤が信頼を置くセルディビジョン、賃貸仲介は東京R不動産のスタジオアハレ、そして完成後のコミュニティ運営には横浜の建築事務所・オンデザイン出身でabout your cityを主宰する小泉瑛一さんという、ひときわ熱量の高い仕事を手がける注目度の高い面々です。(THE GUILD竣工までのプロジェクトの詳細はTHE GUILDのサイト内第二弾対談企画を参照)

立地はJR横浜線「鴨居」駅から徒歩9分、大型商業施設に徒歩1分、緑産業道路に面した工業地帯。2階の共同住宅はものづくりをする人や関わりたい人などが入居でき、1階は桃山建設の加工場と倉庫を残し、新たに内蔵したキッチンつきの広い共用スペースを住人やテナントメンバーが自由に使うことができます。そんな「住む」「つくる」「働く」を融合させた暮らしの実践の場として2020年12月に誕生したのがTHE GUILDでした。

 

 

川岸: THE GUILDは1階に3つのテナントスペース、2階に10戸の賃貸住居があり、住居部分は順調に埋まっています。テナントは、外の人が入ってこられる店舗がいいと思っていたところ、正面に焼菓子屋さん、そして最近アーティストのポップアップショップが入りました。

早い時期に入居してくれた男性の趣味がものづくりなんですが、皮製品を作ったりと、まあ本格的で。彼が作り方を教えながら、ほかの入居メンバーが共用スペースでベンチやボトルラック、革製品を作ったり、店舗が入る前には内装もみんなでDIYもしました。コミュニティとしては月に1回入居者会議も開催しています。

 

 

 

グッドデザイン賞で、コミュニティの仕組みを紐解くプレゼン

川岸: 僕は、相澤さんからグッドデザインに応募しましょうという話を聞いた時点で、落ちるっていう想定は、1%もなかったです。相澤さんがちゃんとやってくれていることはわかっていましたから。

 

 

 

相澤: THE GUILDプロジェクトは、オーナーである桃山建設が自ら施工を担いました。事業主が工務店で、自分たちが手がけたものがグッドデザインに選出されたということは物理的に大きな評価になるはずなんですよ。川岸さんにはグッドデザイン賞のことは応募の直前にしか言っていませんでしたが、当初から私の中で完成後のグッドデザイン賞は織り込み済みの計画でした。

また、受賞できればプロジェクトメンバー全員が「受賞者」になります。一緒に頑張ったメンバーにハクをつけたいということもあって、plan-Aとしては力を入れてのぞみました。

 

グッドデザイン賞の選考で何を問われるかというと、そのアクションによって、または生み出したプロダクトによって社会がどう変わるのか、人のライフスタイルがどう変わるかについてであり、形は二次的なものです。だから、今回プレゼンのデザインとしては、意匠面のことよりそれによって二次的に何が起こるかにフォーカスしました。コミュニティをこれからどう外に広げていくかの仕組みを紐解くことが何より大事な作業でした。

 

 

グッドデザイン賞の応募としては具体的に、plan-Aが事務的作業のほとんどを担いました。まず、一次審査でもあるエントリーサイトの膨大な項目に入力するという作業。そして二次審査では、A1のプレゼンテーションパネルをつくり、現地の国際会議場(愛知県常滑市セントレア Aichi Sky Expo)へ設置に行く。この提出は川岸さんにも同行してもらいました。あとA3版10ページの資料を重要な追加資料として提出する。動画を作って審査会場に設置もしましたが、その動画は小泉さんに制作してもらいました。そして、受賞候補に入っている対象者へのオンライン審査対応です。

今回オンライン審査では、あらかじめ自分が審査員だったらこう聞くだろうなという想定問答を作っていました。そしたらその通りになった(笑)。10分持ち時間があるのに、6分くらいで終わってしまって、そのときの審査員の皆さんに違和感のない砕けた雰囲気から、これは受賞するなとその時に確信しました。

 

 

 

応募のタイミングでplan-Aがチームに

相澤: 実は、このグッドデザイン賞に応募するタイミングで、plan-Aに一気にコアメンバーがギュギュッとジョインをして、plan-Aがチームになりました。

プロジェクトによって外部パートナーとチームを組成するというplan-Aのやり方は基本的に変わりませんが、チームを内製化したことにより、自分を後ろで支えてくれるメンバーが増え、解決できる課題の領域が広がり、速度と深みが倍増どころか乗算的に変わってきています。

 

メンバーはフリーランスや副業、兼業をする人ばかりで、専門領域をそれぞれに持っている。だから私はあまりマネジメントや口出しはしなくていいんですが、個々人がそのプロジェクトを通していかに成長できるか、何を得ることができるかはまめに考えて「これに関わるとあなたはこう成長できると思うんだけど」と声をかけていきます。

 

plan-Aはとにかくクライアントの領域が幅広く課題も多様なので、その一つひとつに伴走して、課題を解決して得られる経験は、チームメンバーにとって普段の仕事では遭遇できないことなんです。案件という“肉”をチームという“池”に放り込むと、ピラニアがわーっと食いついてくるような感じで(笑)。全員が全プロジェクトに総がかりになります。やらされごとと捉えるのではなく、全員がすごくポジティブに乗っかってくる感じがチームとしての特徴ですね。

 

コミュニティづくりはイノベーション

相澤: グッドデザイン賞でTHE GUILDが評価された一番大事なところは、もともと既存の建物が持っていた要素を壊していないという点です。ものづくりの場のDNAを残しながら、外側に対してどう開けるか。その大きな価値転換の部分を評価されているのを審査員の質問の意図から感じましたね。

外に開いていく瞬間は、まさに“今”です。場を開き始めてまだ間もないこの時期に「すでに地域の人たちと何かを始めました」とプレゼンしても嘘っぽくなり、今のフェイズでそれは起こらないだろうというのは審査員も分かっていました。今は内側で“醸成活動”をしているという自然な流れを理解してもらえました。

 

── 「醸成」とは?

 

相澤: コミュニティって個性的な人が集まるとそれぞれが好きなことをしていくので、自然に荒れてしまうんですよね。そこで、コミュニティマネージャーには許容力がありつつ、やりすぎたときにストップをかけてくれる「お父さん」みたいな人が必要なんです。だけどルールでがんじがらめに縛っていくと、あっというまに居心地が悪くなってしまう。居心地が良くなるのが一番大事であって、その上で、どこまで何ができるのかを試行錯誤しながらコミュニティって醸成されていくものなんです。

 

もともとあるボーダーラインを、グレーゾーンと解釈しながら外側へストレッチしていき、あるところで法的なことなどでストップがかかる。でも、それによって「ここまで行けるんだ」っていうのが初めてわかる。それがイノベーションなんですよね。コミュニティ醸成ってそれと同じ。急いだら絶対失敗するし、このプロジェクトはどこまでストレッチしていけるのかなというのを見ながらマネジメントしていきます。

 

 

相澤さんは“頭脳の一部”

川岸: 相澤さんを一言で表すと、ですか?……ちょっとどう言えばいいのかわからないんですが、会社を別にして僕に関してだけで言えば、「頭脳の一部」になってくれています。

「川岸さんは経営者としてこうなるべき」とか「経営者としては、それ考えないで。俺がそれやりますから」と。僕自身は、拡散するっていうことには恐怖があったんですが、自分と同じマインドを持って広げていってくれる。

2代目、3代目という僕のような経営者はいっぱいいると思うけど、相澤さんと関わったらみんな本当に楽だと思う。

 

 

仕事の起点は相手への愛情

相澤: 私がものづくりの仕事をするときに全プロジェクトに通じていることは、「温度感」があるかどうかということなんです。温度感を生み出していくのは何がどうやっても関わっている「人」。「クライアントさんだから」とか「こっちのチームメンバーだから」とかを問わず、関係者全体をフラットに見ていきます。

 

意思決定は事業主である川岸さんがしなければいけないんだけど、必要以上に川岸さんを上にあげすぎない。会話はフラットにしながら、川岸さんが意思決定をしやすいように我らは何を用意するの?というような話です。言葉だけだと簡単なようですが、それをやるためには、川岸さんが日常何に気を使っているかをまめに気にして観察しなければいけなくて、言い換えれば…「愛情」でしかないんです。

 

チームは人数が増えれば増えるほど不協和音もゴタゴタは起きるんです。けれど、そういうのも「人間なんだからしょうがねえじゃん」というのが私の根底にあって、おかしな方向に行かないように緩やかなガイドをする。それはどのプロジェクトも全部一緒です。これを「人材育成」だと捉える人もいますね。

基本的にはメンバーの強い所も弱い所も、ひたっすら観察して、弱い所は責めるのではなくそこをどう補完できるか考える。それが常に変わらない私のやり方ですね。

 

川岸: 馬場さんが以前に相澤さんを先生だと言っていましたね。そこなんでしょうね。

 

時間をかけることを厭わない、むしろ深掘りの時間

相澤: 初期の頃、プレゼンがうまくいかなかったメンバーには、川岸さんが何に困っているのかという話をしょっちゅうしていました。困っていることがわかるというか、感じるんです。

 

川岸: 僕は困っていたのかな?自分ではわからないけど、困っていたんだろうなあ…。僕の場合、ダメ出しされても直すっていうことをしない人間だから(笑)。

 

相澤: ははは(笑)。知ってる。私は川岸さんに一回もダメって言ってないですもん。これは決めなきゃダメですよ、というのは言っているけど。

誰でも困っているから相談するわけで、困っているからにはその背景がある。そこの読み解きをすごく丁寧にやらないといけないんです。仕事を取ることを前提にそこを省いてしまうと、どんどんおかしな方向にいく。

今回THE GUILDでは桃山建設のリブランディングも行いました。長期化は自分にとって無駄ではなく、むしろ関係構築の大事な時間。結果的にめちゃくちゃ深掘っているんです。

一方で、それ(観察の結果見えてくること)を相手に伝えるかどうかは別で、伝える必要がある人には伝えるし、伝えないほうが良いだろうという人には無理に伝えなくていい。総じてコミュニケーションの総量が大事だと思っています。

 

 

 

肌感覚を重視してプレイヤーを編成

相澤: チームビルディングの際は、THE GUILDに限らず、相手を死ぬほど観察してからアサインします。今回は、桃山建設さんというより、川岸さんという人柄に対してまず誰が相性良さそうかなというところから入りました。

THE GUILDチームはOpenAに始まりみんな熱量高めですね。馬場さんが「ここは“匂い”だね」といきなり言っちゃうようなタイプですから(THE GUILD -IKONOBE NOISE- 対談企画参照)。そういう肌感覚がすごく大事。 R不動産のスタジオオハレ・遠藤啓介さんとも賃料をどうするかという話になったりしましたが、一番大事なのは、現場の肌感と匂いがどんな感じかというところを重視してくれる不動産屋かどうかでした。

 

川岸: 相澤さんってその温度感にチームを持って行くのにすごく長けているんじゃないですかね。プロジェクトを通して、ああ、上手だなあと思うところはいっぱいありました。僕、友達づくりは得意だけど、組織づくりが本当に苦手で。ここまで頼ったのは人生で初めてかもしれません。

よく相澤さんが「川岸さんはゼロから1をつくれる人間だ」と言ってくれたんですが、でも僕はその1を2や3にはできない人間で。相澤さんは1を3にしてくれるんですよね。その3になった後も引き続き応援してくれる、そういう人です。

 

BACK TO INDEX