#When?/Where?
ポートランドをともに旅した。遊びの中からソリューションの種を拾ってくる。
足立卓実さん(以下、敬称略): 相澤さんとは、2015年12月に、共通の知人を介して何人かで、アメリカのオレゴン州・ポートランドに一緒に行ってからの縁ですかね。ポートランドは全米の中でも最もサスティナブルなライフスタイルが浸透しており、建築、まちづくり、住民コミュニティ、ものづくり、食、モビリティ、様々な面で、行政・企業・住民による先駆的な取り組みが進んでいます。もちろん、仕事の視察を兼ねていましたが、そこで仲間たちと過ごす時間はともかく楽しく、遊びの要素もたくさんありました。
その後、相澤さんがリストグループで開発に携わった日本初のゼロエネ分譲住宅「リストガーデンオーレリアン深沢」(東京都世田谷区)を見学するなどして、縁を重ねてきました。
パナソニックでの私の仕事ですか? くらし・空間コンセプト研究所では、建築や空間デザインに関わる新しい技術やコンセプトを研究・開発しています。
私自身は大学で建築とプロダクトデザインを学んでいました。学生時代からバンド活動をしており、ライブハウスの内装設計や、仲間たちとDIYで山小屋をつくったりしました。ともかく、「楽しくいこうぜ」という主義で、いろんなことをやって遊んでいました。その後プロダクトデザイナーとしてヤマハに入社しました。
ヤマハ時代は、スタジオ設備の設計や、電子楽器のデザイン、カセットテープに多重録音をするような技術の開発などに携わってきました。ヤマハで10年くらい働き、当時の松下電工、今のパナソニック社に転職しました。
建築デザインとプロダクトデザインはスケール感がまったく異なります。プロダクトデザインではミリ単位で物事を進めていきますが、建築デザインでは日本古来の身体感覚でもある寸尺でとらえますよね。私自身が建築デザインに求めるのは、外観や内装や設備だけでなく、地盤、土地、家電、暮らし、人、全て一体で考えるということ。モノを売るのではなく、あらゆる要素をつなぐサービスを提案する、ということでしょうか。これまでマンションのエントランスの宅配ボックスや住宅用ポスト、雨樋、引き戸などのデザインを手がけてきましたが、これらも一つの建材・パーツとして考えるのではなく、空間や環境とのデザイン面での調和と、それを使う人の動線、そしてサービスやソリューションにいかに直結するかということが大切です。
今、建築やデザインを目指す若い人たちには、本物主義でいこうよ、と伝えています。例えば外壁一つをとっても、本物の質感に似せたフェイクの新建材ではなく、本物の素材を使う技術を追求していく、ということ。私はこれまで新建材のデザインも手がけてきましたが、ずっとストレスがたまっていて……(笑)。ようやく機が熟してきて、2017年に本物の質感にこだわった外壁材「SOLIDO」をリリースできました。セメントの素地の風合いを生かし、薄さと強靭さを兼ね備えた建材です。
これからは机上でモデルをつくるのではなく、現場、原寸主義で考えるべきでしょう。キッチンのデザインをするときも、原寸でつくりますよ。巨大なスタイロカッターや、釣りのリールのニクロム線などを駆使しながら(笑)。そこから見えてくるものは確実にあります。
#What?
コンサルティングの仕事の先に見ていること。
足立: 相澤さんと一緒に仕事を始めるようになったのは、彼が独立してplan-Aを立ち上げてからですね。とはいっても、現時点で何か具体的な成果が出ているわけではありません。相澤さんと何か一緒に開発することを念頭におきながら、今はコンサルティング的な仕事を依頼しています。
製造業の私たちは、住宅・空間をデザインするにあたり、不動産・デベロッパーの業界について学んでいく必要があります。相澤さんには社内研修の講師や、業界の最新動向についてのレポートをお願いするようなこともあります。本当のところでは、彼の目線から、先々のヒントを得たい。お互いの力をギリギリのところまで出し合うクリエイティブな領域で議論しています。
#How?
不動産業界の「壁」を超え続けてきたところでの実績に期待。
足立: 先ほど、相澤さんにはコンサルティング的なことをお願いしている、と話しましたが、調査会社に依頼する前段階での、時代を読み解くカンというか、不動産業界の先々の兆しなどを読み解きレポートしてもらう、という形での仕事を依頼しています。我々も住宅に関する何かを開発するにあたり、不動産に関する感覚をつかんだ状態でないと、マーケティングや調査会社に根拠となる数値データを求めても、意味のあるものにはならないのです。
相澤さんは、不動産業界のことと建築設計の両方を理解している、数少ない方だと思っています。リストグループにいた時代の彼の仕事を見ていると、土地や建物を売るだけではなく、ゼロエネルギー住宅やコミュニティづくりなど、次の暮らしの価値を創造するような、常に新しい挑戦を仕掛けていましたから。
当社で不動産業をやるわけではありませんが、建築や空間設計を手掛けている以上、不動産のことを理解しなければならないと考えています。今後、ライフスタイルが変わり、一つのところにとどまって住む時代ではなくなるはずです。そうすると、建物のことだけを考えるのは頭打ちです。地面の上に建物があり、またその土地の売買に関わる金融業界の動き、それから行政の土地の区画など、すべては関係しているわけですからね。
#Why?
常に脱皮して変化して「次」に進む、「変態」は最上級の褒め言葉。
足立: 相澤さんって……一言でいうならば「変態」ですよね! リストグループさんでもそう言われたのですか(笑)。変態と言っても、昆虫の、ね。常に脱皮して変化する、新しいことにチャレンジしていくという意味ですよ。私も会社の中では変態とよく言われますが、彼に比べたら大したことがないです。ほら、この目つきですかね(笑)。好奇心が目の表情に現れている。好奇心が旺盛で、自分の得意分野の領域を狭めず、いろんな興味分野を持って幅広く「次」をつかんでくる、という感じでしょうか。
私たちのような大手メーカーの中で、plan-Aとは会社同士でビジネスパートナーという関係になるのは難しい。今はビジネス以前の社内同好会のような感じで、イノベーションの種を集めてくるチームの中に彼が入ってきて、一緒に未来について語り合う、一番ワクワクする時間を過ごしています。
これからどんな未来をつくっていきたいか? 今ははっきりとは言えませんが、「住む」ことのあり方が変わってくると思います。これまで人は、分譲マンション、賃貸マンション、注文住宅みたいな、特定の決まった建物に住んできました。その次がどうなるかはわかりませんが……一つところにとどまらない住まい方のような、何かがあるんじゃないかという気がしています。
相澤さんはよく、不動産業界は自ら高い壁をつくって、その領域を越えようとしない、という話をします。でも実は、不動産業界は、建築業、デザイン業、金融業、行政、まちづくりなど、いろんな業界のハブの機能を有している。不動産業界の周りにいる人たちがその機能に気づき始めて、つながり方、拡張していくことを求めているのではないかと、彼は言っています。
相澤さんとのお仕事はまだ情報交換の段階で、一緒に何かのサービスなのかソリューションなのかを創造するところには至っていません。でもきっと、次のフェーズがあると思っています。今後は大手企業・大手メーカー・大手広告代理店でものをつくって売る時代すらシフトしてくる可能性があります。今後急激に人口が減少し衰退していく社会のなかで、もののつくり方、売り方、暮らし方も変わらざるを得ない。相澤さんとのおつきあいのなかで、今後の縮退社会をクリエイティブに乗り切るエッセンスをいただきたいと思っています。