神奈川県産業労働局産業部産業振興課 ベンチャー支援担当課長 永井淳
神奈川県産業労働局産業部産業振興課 新産業振興グループ 主任主事 武山周平
ACT!起業アイデア実現プロジェクト 受託事業者
株式会社plan-A 代表取締役社長 相澤毅、講座担当 田中優子
神奈川県は次世代の起業家創出のために、2016年度から多様な起業家支援を実践してきました。2025年度に新たに始まる【起業アイデア実現プロジェクト「ACT!」】は、起業に関心がある方のコミュニティをつくり、起業に向けて背中を押していくことが期待されます。さらに注目すべきは、本事業を横浜市と県が連携して行うこと。神奈川県と横浜市がそれぞれに培ってきたノウハウとネットワークの相乗効果で、神奈川県の起業に向けた機運醸成を確かなものにしていきます。
神奈川県のベンチャー企業支援の最前線でプログラムを運営、牽引してきた、神奈川県産業労働局産業部産業振興課・ベンチャー支援担当課長の永井淳、産業振興課主任主事の武山周平に、【起業アイデア実現プロジェクト「ACT!」】に懸ける思いを伺いました。
起業の「種」から「芽」を確かに生み出す

武山: 神奈川県は元々、起業家を支援するとともに起業の裾野を広げていくために、起業前、起業前後、起業後といった各段階支援を行ってきました。
まずは「起業前」の支援として行っているのが、大学生を中心とした若い方々向けのプログラムである、次世代起業家創出事業「#キクスタ」です。これは学生と先輩起業家との交流機会、ビジネスプランの作成講座、自分のビジネスアイデアを発表するビジネスコンテストの3本柱で、学生がアントレプレナーシップを身につけていくことを応援するプログラムです。
●「かながわアントレプレナーシップチャレンジ #キクスタ ~未来へのKICKSTART~」
https://tsucrea.com/kanagawa-kikusuta/
次に、「起業前後」では、実際に起業しようと準備している方々を支援する取組として、かながわ発の、ベンチャー企業・起業家を創出する拠点である「HATSU」を展開しています。民間運営のコワーキングスペースと連携した「HATSU鎌倉」(鎌倉市)、「AGORA Hon-atsugi」(厚木市)、「ARUYO ODAWARA」(小田原市)の3つの起業家創出拠点で、地域企業や先輩起業家と交流しながら起業に進むための「HATSU起業家支援プログラム」を実施しています。
●「HATSU 起業家支援プログラム」
https://www.pref.kanagawa.jp/docs/sr4/hatsu/support-program.html
そして、「起業後」を支援する取組として、ベンチャー企業の成長を促進するための支援を、ベンチャー企業の成長促進拠点「SHIN みなとみらい」で行っています。SHINみなとみらいでは、ベンチャー企業の事業拡大や、大企業や行政機関との連携プロジェクトの創出に取り組んでいます。
●ベンチャー企業の成長促進拠点「SHINみなとみらい」
https://www.pref.kanagawa.jp/docs/sr4/shin/shinminatomirai.html
今回スタートする【起業アイデア実現プロジェクト「ACT!」】は、若年層に対して起業の普及啓発を図っていく「#キクスタ」と、実際に起業に向けて準備する方々を伴走支援する「HATSU」の中間の部分に位置します。ACT!では起業アイデアをお持ちの方を対象に、そのアイデアを実現していくためのアクションを支援するプログラムです。

これまで実践してきたプログラムの、起業関心のアイデアといった「種」を、実際に「芽」として発芽させていくまでの具体的な行動計画や、その実証をしていくためのプログラム、ということですね。本プログラムの「神奈川県らしさ」とはいったいどういうところにあるのでしょうか?
武山: 他の都道府県のベンチャー支援においては、スタートアップを生み出して、経済を活性化させることに主眼をおいていますが、神奈川県ではそれに加え、さらに、社会課題の解決を図ることを目指しています。それは、ACT!だけではなく、他のベンチャー企業の支援プログラムにおいても、支援を受ける企業は社会課題解決に資するプロダクトやサービスを実現し、社会に広げていけるよう展開しています。
神奈川県と横浜市との有機的な連携
【起業アイデア実現プロジェクト「ACT!」】は、横浜市との連携で行うのが大きな特徴ですね。

永井: 神奈川県のベンチャー支援の特徴は、「HATSU – SHIN KANAGAWA」モデルといって、起業以前の段階からきめ細やかに伴走支援を行い、起業家の方が着実に成長していく中で、さらにオープンイノベーションの担い手になり、大企業と対等な共創関係を構築するようになれるまでの一気通貫の取組をしているところです。
神奈川県には横浜市をはじめ、川崎市や相模原市といった政令指定都市もあり、それぞれがベンチャー支援の取り組みを行っています。これまでは、県の取組と、県内政令市の取組とがなかなか有機的にからみあっていくことができず、そこに一歩踏み込む必要がありました。
令和7年度は、ベンチャー支援に注力している横浜市と連携して次世代起業家の育成支援に取り組むことができたことについては、非常に大きな一歩だと考えています。これまでも一定の連携はできていましたが、今回、県と市の連携事業として、起業に関心を持つ学生や社会人などを対象にした起業人材育成スクール「ACT!」を実現できたことで、ベンチャー企業へのさらなる支援の取組として花開かせることができると思います。 今日このインタビューを行っている「SHIN みなとみらい」は神奈川県のベンチャー支援拠点で、非常に活気あふれてイキイキした職場です。職員も、企業の方々も、強い意気込みを持って活動しており、一つの大きな目標に向かって大きく進もうとしている魅力のある場所になっています。そうした取組を今年度からより有機的に結合させることで、さらに発展させていきたいと考えています。
●プレスリリース:神奈川県と横浜市が連携して起業⼈材育成スクールを新たに開催します︕
https://www.pref.kanagawa.jp/docs/sr4/prs/r3378833.html

武山: 横浜市のスタートアップ支援拠点「YOXO BOX」や、富山県の創業支援プロジェクトの「SCOP TOYAMA」での実績があり、一過性で終わらないようなプログラムづくりが得意なplan-Aさんだからこそ、丁寧に起業関心層と実際に行動を起こす方々をつないでいける可能性があると思い、ACT!のプログラムをつくってきました。神奈川県ではこれまでも手厚く起業支援をしてきましたが、このプログラムにより、「起業関心層」と「起業準備層」の間を補完して、起業アイデアだけでなく、いかに行動に移していくかを支援していきます。
相澤: 実は神奈川県の事業を受託するのは今回が初めてです。数年来、YOXO BOXの運営に携わるなかで、これまでもSHINのコミュニティに参加する機会があり、YOXOとSHINがもっと近づいてもよいのにな、と感じていたのは事実です。YOXOではスタートアップ成長支援ではありながら、すでに地域で起業されている方々とスタートアップが自然と馴染むように奔走する、土着な動き方に寄せて活動していました。YOXOとSHINとの接点をどうすると相互に価値が生み出せるのかを議論しているなかで、県市連携を提案して連携事業が誕生することになったという流れが生まれていきました。
●「横浜市次世代起業人材育成拠点『YOXO BOX』で、中高生を対象とした起業家精神を育むプログラムが2025年にスタート!」をプレスリリース発表いたしました
https://plan-a-02.co.jp/news/press-release-prtimesyoxo2025/
●WORK:SCOP TOYAMA
https://plan-a-02.co.jp/project/scop-toyama/
東京ではなく神奈川で起業する意味
神奈川県は人口920万人と東京に次いで多く、また県の地勢や風土も特徴的で、個性がある県と言えます。ベンチャー支援においても、県内各地の地域特性はあるのでしょうか?
武山: 横浜市ではみなとみらいを中心に大企業が誘致され、みなとみらいや関内エリアではベンチャー企業支援が充実しているという特徴があります。川崎市は多摩川沿いの殿町エリアで先進医療研究施設が集積しているほか、相模原市などの県央エリアは大学が多く立地しているとともに、ロボット産業などの先端技術の開発に注力するエリアです。鎌倉市を中心とした湘南・横須賀三浦エリアは、海も近く、環境や健康意識が高い方々が多く暮らしているので、サーキュラーエコノミー系やヘルスケア関係のベンチャー企業が強いエリアですね。そうした地域ごとの環境や特色を理解し、周知することで、神奈川県としても連携を意識しています。

SHINがみなとみらいに拠点を置いているのに対して、HATSUは県央・湘南・西湘地域に3拠点という違いがあります。
武山: HATSUは民間のコワーキングスペース運営事業者と連携しているのが特徴です。「HATSU鎌倉」(鎌倉市)、「AGORA Hon-atsugi」(厚木市)、「ARUYO ODAWARA」(小田原市)と3拠点がそれぞれ個性を持って運営しており、地域に根ざした事業に取り組む方が入居するなかで、ここから大きく成長を目指すベンチャー企業が生まれることを理想として、さまざまな支援策を提供しています。
コロナ禍もあってよりローカルへの志向が高まった時期で、地域での起業も選択肢に入るようになってきたのではないでしょうか。
武山: そうですね。コロナ禍を経て、より対面での支援の重要性が増してきて、我々も丁寧に起業家さんに寄り添って、親密さや手厚さを意識してきた面もあります。
神奈川県は、「#キクスタ!」や「ACT!」だけでなく、「HATSU起業家支援プログラム」や「SHINみなとみらい」など、ベンチャー支援の各事業はそれぞれ精通した業者に委託しているのですが、県の職員も一体となって、起業家たちに伴走しています。もちろん壁打ち相手にもなりますし、情報提供もしていきます。よりハンズオンに近い形で、近い距離で一緒に参加していくというのが、私たち神奈川県のスタンスです。
せっかく神奈川県で起業しても、スケールしていく時に起業家が東京に流出してしまうというのが神奈川県としても課題に感じていたところですが、事業の連続的な統一性と距離感の近さが、東京にはない神奈川県の強みと言えるのではないでしょうか。
実際、起業家側からよく聞くのは、「サポートが手厚い」「量より質ではないが、個々の課題に対して手厚く支援を受けられる」という評価です。それこそが神奈川県で起業する意義ではないかと思います。
実際に、我々と関わりのあるベンチャー企業は、1on1で話を聞く時間をつくっています。こうした時間をかける意義もありますし、今は、支援した先の接続として、「ビジネスアクセラレーターかながわ(BAK)」という事業で大企業との連携も進めています。これは、我々のネットワークも生かしながら、ベンチャー企業と大企業とお繋ぎしてオープンイノベーションを起こしていくというもの。さらに、7年度からは、行政課題の解決を図るため、自治体との連携プロジェク「エール“ガバメント×ベンチャー”アライアンスかながわ(YAK)」も推進しています。県内の自治体や大企業との連携により、ベンチャー企業の成長を促していけるよう取り組んでいきたいと考えています。
●オープンイノベーションプログラム“ビジネスアクセラレーターかながわ(BAK)
https://www.pref.kanagawa.jp/docs/sr4/cnt/f537611/bak01.html
●自治体連携支援 “エール“ガバメント×ベンチャー”アライアンスかながわ(YAK)
https://www.pref.kanagawa.jp/docs/sr4/cnt/f537666/yak01.html
Information
- ACT!起業アイデア実現プロジェクト オフィシャルサイト
https://plan-a-02.co.jp/act/ - 起業を志す⽅を応援する5Daysプログラム「ACT!」の参加者を募集
https://www.pref.kanagawa.jp/docs/sr4/prs/r3378833.html