• ACT!に込めた想い

【聞きたい!ACT!<後編>】起業家の卵を包むコミュニティ〜気になるACT!の中身〜

神奈川県産業労働局産業部産業振興課 新産業振興グループ 主任主事 武山周平

ACT!起業アイデア実現プロジェクト 受託事業者
株式会社plan-A 代表取締役社長 相澤毅、講座担当 田中優子


神奈川県では2025年、横浜市と連携して起業人材を育成し、起業の実現に向けた行動計画の策定を支援する【起業アイデア実現プロジェクト「ACT!」】を実施します。まずはその第一弾として、10月からは横浜市の次世代起業人材育成拠点「YOXO BOX」を会場に、「起業人材育成スクール『ACT!』行動計画設計5Days プログラム」がスタート。気になるその中身と、スクール参加後のコミュニティについて、神奈川県産業労働局産業振興課新産業振興グループ・主任主事の武山周平、プログラムを運営する株式会社plan-Aの相澤毅、田中優子を直撃しました。

計画、検証、コミュニティ。3本柱で起業意志を継続

前編では、神奈川県の次世代起業家支援の取り組みと、その中でACT!がどのような役割を果たしていくのかについてのコンセプトを伺いました。後編では具体的なACT!のプログラムの中身について教えていただけますか。

<前編>神奈川県の起業関心層の裾野を広げる〜ACT!誕生に至るまで〜

武山: 神奈川県の新たな起業支援プログラムの「ACT!」には、様々な目的があります。一つ目は、若者向けの起業啓発である「#キクスタ」と、起業準備段階に入った「HATSU」のコミュニティをつなげることです。起業という選択肢を知り、起業への関心を持った方が、実際に起業へと動き出す過程を後押ししたいと思っています。

もう一つの目的は、起業関心層の方々のコミュニティをつくることです。「#キクスタ」では高校や大学に出向いて、そこで若手起業家に登壇、交流してもらって若者の起業への関心を広げ、さらにビジネスプラン作成講座の参加、その後、学生ビジネスコンテストに応募していただけるよう、連続的な設計をしています。そうした中、ビジコンで発表して終わってしまっては、起業にもつながらず、起業に関心を持った方が集まるコミュニティも生まれません。一方で、地域発の起業家を創出するコミュニティのHATSUの取組では、実際に起業することを決意し、その準備に入る方が集まっているため、キクスタとHATSUの人たちの起業への想いにギャップがあり、連携が弱かったのが、これまでの課題でした。せっかく関心を持った方々がいるのに、そうした方が集まり、コミュニケーションができるコミュニティが存在しなかった。起業に関心を持つ方々が、今すぐでは無いかもしれませんが、将来の起業に近づくためのコミュニティを、このACT!で生み出したいと考えています。起業関心層への支援を途切れさせずに、コミュニティがあることで起業のステップに応じた支援を続けていけるプログラムがACT!です。


ACT!は、起業関心層が実際に行動に移していくためのアクション支援プロジェクトということで、起業スクールである「行動計画設計5Daysプログラム」と「ACT!検証ステージ」、そして参加して終わりにならないためのコミュニティ「ACT!アルムナイコミュニティ」(※注)の3本柱で形成されていますね。その具体的な中身について教えてください。

※アルムナイ=卒業生、同窓生という意味

田中: 神奈川県の担当職員の皆さんの想いを伺い、神奈川県の切れ目のない起業家支援のプログラムにおける意義を解釈して、今日までにこの形にしていったのが私たちの役割でした。
まずは【起業アイデア実現プロジェクト「ACT!」】を行い、次に「ACT!検証ステージ」、それらが終わってからもつながる「ACT!アルムナイコミュニティ」を設計しました。武山さんのおっしゃる課題はその通りで、起業家の卵がせっかくの起業アイデアを形にしようとしても、そこを支えるコミュニティがなければ、一人ではがんばりきれません。考えるフェーズと行動するフェーズは全く違うものなのです。この課題は、神奈川県特有のものではなく、起業家支援全体に関わる課題だと思います。

「ACT!行動計画設計5Daysプログラム」では、事業プランの仮説を立て、その事業プランを実現するための行動計画を設計して実践していくことの両輪を回すことで、参加者の頭の中にある「起業アイデア」を言語化して頭の外に出していきます。この共通体験を参加者同士がともにすることでコミュニケーションをとり、5日間のプログラムを乗り越えた仲間だからこその相互理解がある、心理的安全性の担保されたコミュニティをつくっていきます。
そして、卒業生たちが参加できる「ACT!アルムナイコミュニティ」はオンラインに留まらず、勉強会や施設見学会等を通じて、お互いのアクションに対して反応をし、応援しあえる仲間同士の実践できる環境を維持することを目指します。

ACT!が生み出す起業のエコシステム

この「ACT!」の事業を通じて、神奈川県の次世代起業家やベンチャー企業がどのようなカスタマージャーニーを辿っていくことを理想としていますか?

武山: 起業家・ベンチャー企業のコミュニティが生まれて持続的に活動し、それが維持されていく環境(エコシステム)になっていくことが理想です。横浜市や川崎市では起業家たちが数多く生まれて、そのコミュニティが活性化しています。県が連携することによって、これらをさらにステップアップできるエコシステムに発展させていきたいと考えています。
まずは起業関心層がアイデアをもとにビジネスプランを考えるフェーズがとても重要です。また、練り上げたビジネスプランを検証するための実証の機会や、いざ事業を始める際の資金などを確保することも大切です。素晴らしい事業の芽が出ても、それが世に出ないことには始まりません。事業を始めてビジネスとしてお金を生み出し、継続できる体制の構築に向けて、課題をきちんと乗り越えて行動できるように支援します。そのため、「ACT!検証ステージ」という、ビジネスプランを検証し、見えてきた課題の解決を探るための支援も用意しています。

起業は、起業すること自体がゴールではなく、一度事を起こしてしまえばずっと続いていくものです。そのプロセスにどんな価値を感じられるのか、それを理解して「よしやるぞ!」という志を消さないような事業設計を心がけました。
事業がある程度、立ち上がり、回っていった後には、事業をさらに大きくしていくという成長の段階があるので、その時には県のベンチャー企業の成長支援を行う拠点「SHINみなとみらい」や、そこで実施するKSAP、BAKといった次の支援プログラムが待っています。ACT!のプログラムでは終わらず、一気通貫で起業支援が受けられる事業が神奈川県にはあります。まさに、神奈川県は起業するには充実した環境であると感じていただければ嬉しいです。
ぜひ、学生など若い方や、起業に関心を持っている方、そして、起業したい気持ちがあるけれども何からやればいいか分からない方、仲間や進め方のヒントなどを求めている方に参加していただきたいです。

そして、ACT!が行われる拠点は、横浜市の次世代起業人材育成拠点の「YOXO BOX」であるというのも、とても熱いですね。

武山: 横浜市のYOXOコミュニティの熱量はとても素晴らしいですね。特に、毎年度、まちぐるみで開催されるYOXOフェスティバルはとても盛り上がっていますね。検証ステージでもこういった場を活用していきたいです。県のさまざまなフェーズの起業支援のプログラムと、ぜひYOXOのプログラムと相互に連携できればいいなと思っています。

相澤: 我々Plan-Aはもともと横浜市のYOXO BOXの運営側にいたので、逆に「SHINみなとみらい」のコミュニティの熱さはすごいと感じていましたし、支援金が出るBAKのプログラムの完成度はものすごいな、と。横浜・関内のYOXOの温度感と、神奈川県のSHINみなとみらいの熱量、それぞれが現場レベルで相互に作用しあった結果、行政の施策上でオフィシャルに連携できることが圧倒的な強みになると思います。

それにしても、武山さんにしても永井課長にしても、次世代起業人材育成支援に関する熱量が素晴らしいですね。

武山: 個人的には、スタートアップやベンチャー支援の事業は、担当者の属人性が大きい分野だと感じており、これまでも県と市の担当同士が連携して取り組んできています。しかし、この事業を通じて、Plan-Aが両者をつなぎ、横浜市と神奈川県の連携を深め、属人的な部分を改善して大きなつながりをもってシステム化できるのではないかと感じています。

田中: 実はこの「つなぐ」という役割も属人的なものなので、なかなか一足飛びにはいきませんが、運営者も含めたコミュニティの「みんな」による「つながる」空気感が醸し出されていくとよいと思います。
ACT!はまさに「つなげる事業」です。その「つなぐ」を理由にして、さまざまな起業家が、先輩起業家やベンチャー企業に会いに行き、また私たちもその接続を応援していきます。

コミュニティがあるから志を全うできる

相澤: この「アルムナイコミュニティ」のつくり方は、まさに我々plan-Aが富山県の創業支援で培ってきたあり方で、コミュニティマネージャーは「がんばらないことをがんばる」という、徹底的に利用者目線で、利用者が絶対的な安心感でいられるような、居心地をよくすることに全集中できるようにコミュニティを設計してきました。

ACT!のプログラム全般に言えることですが、YOXO BOXを会場にリアルでプログラムを実施し、場の空気感を感じてもらって、参加者が自然に「つながる」ことができるような設計を重視しています。一つひとつの体験やワークは、座学にとどまることなく、参加者のみなさんが自ら行動していくための「ガイド」です。起業への不安も躊躇も含めた感情の動きを共有し合うことを体験していく、その先がものすごく成長につながります。ただ、成長できた人が勝ちで、ダメだった人が脱落ではなく、自分なりの行動設計をしていくことが大切です。参加者のプランをACT!で囲い込むのではなく、やりたいのにできない人も、うまくやれている人も、すべてを承認し、神奈川県の他のプログラムや、横浜市の次世代起業人材育成のプログラムに連携して、一歩を踏み出すことを後押ししていきます。

最後に、ACT!のプログラムに参加を考えている方々へ、メッセージをお願いします。

田中: 自分で起業しよう!世の中の課題を解決しよう!と思いつく時点で尊いことです。でも、何らかのハードルがあり、その志が世に出ないことはもったいない。その方たちの背中を押すことができるのがACT!です。ぜひ、ご一緒できたらうれしいです。

相澤: 神奈川県という広域自治体と、横浜市という基礎自治体がきちんと連携しながら、その先にいる人の成長をどうするかというところに、それぞれの自治体の職員の方々やステークホルダーが目を向くようにしたいです。まずはそれを連携してやっていこうという神奈川県と横浜市が本当にすごい。神奈川県のACT!も、連携事業として行う横浜市のYOXO NEXTも、それぞれが越境して、いい流れをお互いに影響させ、クロスオーバーしていくはずです。そのフィールドを我らがどうつくれるか、まさに期待値というよりも使命感に近いものを感じています。

武山: 起業することは、覚悟が必要で、そこにはリスクがあるものだと思っています。そういったリスクを踏まえ、実際に今すぐ起業するかどうかは別として、まずは今の状況から飛び出す一歩を踏み出していただくことに挑戦するのがこのACT!のプログラムです。ACT!自体はハードルが高いものではありません。参加いただいた皆さんには、行動したいと感じていただけるはずです。参加に際しては、今すぐ起業するというところまで決める必要はありません。ぜひみなさんにACT!のプログラムを体験し、仲間を見つけ、行動する計画を作ることで、その先の起業にたどり着く一歩を踏み出していただきたいです。

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